「ライジング・サン&モーニング・カーム」 第8章 The Rising Sun & The Morning Calm Ch. 08 by vinkb
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これまでのあらすじ
16世紀釜山。地元娘ジウンは日本人ノボルと知り合い、ふたりは結ばれた。しかし翌朝、ジウンはノボルの弟サブロウらに強姦され、自害する。それに反発したノボルは秀吉に不死の刑を科され、狐使いの美女とに半人半獣の身にされてしまう。時代は変わり現代のシカゴ。女医アンジェラはノボル(ノブ)と知り合い、デートをし、彼とのセックスで失神するほどの快感を味わう。翌朝、ノブはアンジェラに自分が半人半獣であることを打ち明け、目の前で変身して見せた。その後、二人はアンジェラの家に行こうとするが、ノブは何か危険を察知し、彼女を連れて自宅に帰る。サブロウが生きててノブを追っているらしい。ノブは自分の身体の生化学的な研究を進めていることを説明した。そこにアンジェラのボディガードとしてノブがつけた男、ゲンゾーが現れた。
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アンジェラは目の前に立つストイックな男を見つめた。ゲンゾウは日本人にしては背が高く、185センチはあった。髪は黒く短く、ツンツンとスパイク状に尖がらせていた。驚くほど逞しい体つきをしており、厚手のケーブル・ニット(
参考)のセーターの上からでも、その体つきが見て取れた。ぱんぱんに張った太ももにジーンズがまるで皮膚のように張り付いていて、そのお尻の形は、男性のお尻としては、アンジェラが知ってる中でも最高と言えた。仮にノボルに出会っていなければ、アンジェラはゲンゾウに見つめられたら、気持ちがざわめいて困っていたかもしれない。
ノボルは、アンジェラがゲンゾウの体つきに惚れぼれしているのを見透かしたように、横眼で彼女を見て、可笑しそうな顔をし、それからわざと咳払いをして見せた。
「あっ、あー。初めまして、ゲンゾウ。アンジェラ・バエクです」
アンジェラは握手を求めて手を差し出した。ゲンゾウはそれを見て、それからノボルに目をやり、ノボルが無言で頷き、許可するのを見た後、彼女の手を取り、握手した。ゲンゾウは強く、しっかりと手を握る男だとアンジェラは感じた。
「私はあなたとゲンゾウの二人きりで話し合いをしてもらおうと思います」
ノボルはアンジェラにそう言い、ゲンゾウに彼女がよく分からない日本語で何か伝えた。ゲンゾウはただお辞儀をするだけで、それに答え、ノボルはその後、部屋を出た。
「座りませんか?」 とアンジェラはカウチを指差した。
「お望みとあらば」 ゲンゾウの訛りも、彼が日本生まれであることを示していた。
「あなたのお歳は?」 ゲンゾウが腰を降ろすのを見ながら、アンジェラは尋ねた。
「312歳です」 と何でもないことのように答える。
明らかにゲンゾウもノボルと同じ状態になっているようだ。「それじゃあ、ずいぶん前からノボルのことを知ってるのね?」
「ええ」
ノボルの温かで愛情豊かな態度に慣れた後だと、実に日本人的な控え目な態度で振舞う人間に話しかけると奇妙な感じがした。
「私に付き添っていなければいけないことについて、どう思う?」
「ノボル様[-sama]の要求なら、私は決して拒否しません」
「いえ、違うの、ゲンゾウ。私が訊いてるのは、あなたがどう思うかということ」
「物事について個人的な気持ちにふけるゆとりは私にはありません」 ゲンゾウは実務者的に答えた。
彼のその応答に、アンジェラはさほど驚かなかった。「そう。わざわざ苦労していただいて、感謝するわ」
彼は頷くだけで、返事はしなかった。
「私がお願いすることは多くはないの…」
アンジェラは、ゲンゾウが黙ったままでいるのを見て、それが話しを続けてよいという相図だと解釈した。
「…ひとつは、あなたには待合室に留まっていてほしいということ。もうひとつは、誰かにここで何をしているのか訊かれたら、予約時間に早く来すぎたと返事してほしいということ」
しばらく無言でいた後、ゲンゾウが口を開いた。「それで全部ですか?」
「ええ」
「分かりました」 と彼は立ち上がった。「ノボル様[-sama]が同意されたら、あなたの希望に従います」
「ありがとう」
アンジェラはゲンゾウという人間のことをもっとよく知ろうと思っていたが、見たところ、ゲンゾウはこの機会のことを社交上の訪問とは考えていないようだとアンジェラは思った。
まるで相図でも受けたかのように、ノボルがリビングに戻ってきた。
「それで?」
「指示を頂きました、ノボル殿[-donno]」
ノボルに「殿」をつけて呼んだ時、アンジェラが驚いて顔を上げるのを、ゲンゾウは見た。
ゲンゾウとふたことみ言、日本語で言葉を交わした後、ノボルはアンジェラを振り返り、「すぐに戻ってきます。ゲンゾウと話し合わなければならないことがあって」と言った。そして二人は部屋を出た。