「裏切り」 第8章 首を絞める縄 Betrayed Ch. 08 by AngelCherysse Chapter Eight: The Noose Tightens
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これまでのあらすじ
ランスは、妻のスーザンとジェフの浮気を知りショックを受ける。ジェフがシーメール・クラブの常連だったのを突き止めた彼はそこでダイアナと知り合い、彼女に犯されてしまう。だが、それは彼の隠れた本性に開眼させる経験でもあった。1週間後、ランスは再びダイアナと会い女装の手ほどきを受け、愛しあう。ランスはダイアナが奔放に男遊びを繰り返すことに馴染めずにいた。そんなある日、会社の美人秘書アンジーに正体を見透かされる。そしてアンジーに誘われるままリサの姿でレストランに行くと、そこには会社の上司であるジムとロブがいた。そこでリサは自分が昇格したこと、およびランス=リサであることがバレていることを知らされる。リサはショックを受けたものの、本来の自分に忠実にアンジー、ロブ、ジムと4人プレーをして燃える。
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すでに言っていたかもしれないが、何もかもが急速に進展していた。
ランス・レイトンが新しく得た権利を行使し、早速、会社から出て行ったと聞いても、驚いた社員は誰もいなかった。ランスと同じような結果を出したいと願わない社員は一人もいないだろう。
噂が急速に広がった。いわく、ランスは自分の会社を興したとか、アルバに新しい家を建て、自宅でインターネットを使ってトレーディングをしているとか、妻との問題で打ちのめされ、もうこの業界から手を引いてキーウェストでチャーター船を運営しているとか、すっかりマイケル・ジャクソン状態になっていて、財産を増やしつつも、世間から隠れてひっそり暮らしているとか(個人的には、チャーター船の噂がお気に入り)。
ランスが退社したことを受けて、ロブとジムが外部に打診し、新しい副社長を採用したと聞いて驚いた社員もいなかった。リサ・レインという人物が高評価で推薦され、新しく副社長の地位についた。噂によると、リサとランスは大学時代クラスメートで、ファイナンス関係の講座でトップを競いあった仲らしい。ふたりともトレーディングの業界に進んだという。退社したランス・レイトン氏によると、リサもかなり有能なトレーダーとのことだ。ランスは退社に際して、自分の代わりになる最適の人物としてリサの名前を流した。重役であるジムとロブは独自に副社長候補を考えていたが、ランスの判断を尊重し、リサに仕事をオファーした。そして、リサはそれを快く引き受けたと言う。
この偽情報を考え出したのはアンジーである。彼女は自慢げにこの作り話を考え出し、そして積極的に広めた。このような動きの真の目的は、会社のトレード部門の再編にあった。トレード部門は「戦略的トレーダー・グループ」に装いを変えられ、その指揮に当たるのが新しい副社長(つまり私)なのである。
もうひとつ噂が急速に広まった。これは仕組まれた噂ではなく自然発生的に出てきた噂。新しい重役が「超美人だ」という噂である。
この噂が出てきたのは、おそらく会社の配送部から。私はこの会社に「配送部」があることすら知らなかった。多分、管理部に3人か4人ほど無理やり動員がかかっただけだと思う。ともかく、ガレージに行って、リサ・レインの到着したばかりの私物をカートに乗せ、エレベータで最上階に移動し、彼女の新しいオフィスに配送したと、そういうことなのだろうと思う。
リサと彼女の個人秘書であるアンジーが、その荷物の点検をするためにオフィスにいた。男たちはアンジーのことはすでに知っていたが、その場にいたもう一人の女性であるリサ・レインの姿を見て、圧倒されたのだろう。
会長と社長からリサを歓迎するメモが回覧されたこともあり、会社の誰もが、疑うこともせず新しい副社長を受け入れた。誰も疑うことはしなかったが、予想に反した美人度に自分の目を疑う人はたくさんいた。
それが水曜日の午前の話し。「外部から採用された」という設定を守り、私の正体がばれないようにするため、アンジーと二人で火曜日の夜に元のオフィスに行って私物をすべて箱詰めし、あのカートが置いてあるガレージに持って行っておいたのである。
人事部はロブからメモを受け取った後、素早く新副社長の採用関係の書類をまとめた。正直、私の社会保険番号をどうやって用意したのか分からない。アンジーに訊いたら、今は知らないのが一番と言っていた。と言うことは、何かよからぬ手段で入手したのかも。インターネットで購入したとか。