火曜日の午後、私はアンジーと買い物に出かけた。私の新しい服を買いに。「重役の特典」のひとつは、服装について潤沢に費用を出してくれることだった。しかも、とても簡単な手続きで費用を出してくれる。
購入した衣装はとても上品なものだった。ええ、正確には「大部分は上品なもの」というべきかも。ともあれ、私は今は副社長なのだから。
服の選択にはアンジーにも手伝ってもらった。当然、嬉しいほど女性的なものも含まれている。例えば……スラックスやパンストなどはナシ、といった感じで。
どういうわけか、衣装費の一部は「余暇のための服」にも向けられていて、新しいコルセットとか、その他のちょっとした「余分なもの」にも使われていた。ハア……、ビジネスをやっていくのにしなければいけないことがたくさんあって、溜息がでちゃう。
自宅の方について言うと、アンジーは、ランスの服や靴や下着を全部箱に詰めて、リサの服飾のためのスペースを作った。彼女はランスの服飾類を全部、身障者のための慈善団体に贈るよう取り計らった。でも、私はアンジーに、重役秘書はそんな仕事に気を使うものではないのよと伝えた。私が人を手配して、配達させるからと。実際、私はその通りにし、ランスの服飾類をノース・クラーク通りの貸し倉庫に運ばせた。「リサ」関係のことが上手くいかなくなった場合に備えて…
こういう「女の子っぽいこと」のいろいろには驚かされっぱなしだった。子供時代も、私はこの「女の子っぽいこと」のいろいろに、今と同じく目を見張っていたのだけど、でも、成長するにつれて、その気持ちをずっと無視してきたのだと思う。その子供のころ抱いていた「女の子っぽいこと」についての驚きと感動と情熱が、長い間休眠中だった種のように、今になってわっと芽を出し、根を張り始めたのだった。
自分が本当は好きになるものだと気づかなかったのに、突然、心から大好きなものだったと発見し、いったんそうなったら、いくら追い求めても飽きが来ない。そういうものになっていった。チョコレート・サンデー(
参考)を食べたくなる衝動のような感じ。もちろん、高カロリーはだめだけど。
ちなみにアンジーはチョコレート・サンデーが大好き。アンジーには、彼女ととてもたくさん共通点があるガールフレンドがいる。そのガールフレンドがアンジーの上司でもあって、今、彼女の勤務評定を書いているというのも、偶然かしら。さらに、そのガールフレンドはアンジーの×××でもあって……。何を言ってるか分かると思うけど。
ダイアナは私のことについて、これ以上ないほど喜んでいた。今は、「リサ」が週に7日、毎日24時間いることになったので、彼女は私に「処置」をしたらと盛んに勧めている。
私も、してしまいたいとは思うけど、そうすることによって、今のこの新しい変わったライフスタイルから元の生活に「後戻りできない」ことになるわけで、そこのところで悩んでいた。本当に自分はそうする心づもりができているのかしら?
私はその場の言い逃れとして、「例のショーまで13週間しかないけど、それまでにできる?」と訊いた。それに対してダイアナは、「ええ、急げばね」と答えた。
ダイアナは、あの「昇任祝いパーティ」の件については、意外なほど理解があった。彼女は、自分が欲しいものを手に入れるためにセックスを使うことを全然恥じていない。私がしたことも、それと違いはないと考えている。「それは、新しいオトコを漁りに出かけたのとは質が違うから」と。
私としては彼女の言う質の違いが良く分からず、「その新しいオトコの方が私を漁りに来たのかもしれなく、結局、同じことのような気がするけど」とは指摘したけど。でも、まあ、私はそういうダイアナが好きだし、その件はそれで片付いた。
ともあれダイアナは、私があのパーティの後、すぐにタクシーに乗り、彼女のところに来て全部話したのを知り、「そんなに私のことを気にかけてくれていたの?」 と驚いていた。普通だったら、時間を置いてから話すか、それとも隠したままにしておくかもしれないのに、私がすぐにすべて話したことに圧倒されていたようだった。
「私の考え方や感情のことをこんなにも思いやってくれる人は、あなたが初めて…」
ダイアナはそう言って、再び泣き始めた。私は彼女の涙を乾かすために斬新な方法を考えなければならなかったけれど、その努力のおかげで、ダイアナの啜り泣きを、至福の喜びを伝える絶叫に変えることができた。
ダイアナについていろいろ知ったつもりだけど、それでも依然として彼女は謎の存在だと感じていた。彼女が言葉にすることが謎ではなく、言葉にしないことが謎だった。
この印象、前にも抱いたことがあった。ダイアナは何かを隠している。
リンガーズに行って、チャンタルや他の女の子たちにそのことを話してみた。そして、ダイアナは、ああいう女の子たちの大半がそうだけれども、傷つけられるのを防ぐため、友だちも含めて誰にでも深入りしない人なのだと知った。彼女たちの世界では、身体的な痛みも精神的な痛みも、どちらの痛みも日常的にあるのである。私は、ダイアナがいまだに私に隠していることが何であるか分からなかった。できれば、それは私たちの関係を傷つけるものでないといいのだけど、と期待することしかできなかった。