「本当のことを言うと、その件については友だちと話したことがあるの。でも、たった13週しか時間がないし、間にあうとは思わないわ」
「13週?」
そうアンジーは問いかけ、少しした後、目を輝かせた。
「なんてこと!……あなた、ミスター・ゲイ・レザー・ページェントのファッションショーに出るのね? ああ、スゴイ! あれのために、アメリカ全国からもカナダやヨーロッパからもたくさん人が集まるのよ。ゲイ・フェチ関係では最大のイベントだわ。13週なら、今すぐ始めるなら充分な時間よ。すぐにロブに電話して、了解を取るわ。彼なら大喜びで承諾するはず」
「本当にそう思う?」 私はわざと夢中になっているフリをして答えた。「いまから待ちきれない」
何とか気持ちを表に出さずにすませた。幸い、アンジーには悟られなかった。私は自分で何をしているのか分かっているつもりだといいんだけど。そういう気持ちになったのは、何回目だろう?
すでに私は、猫とネズミ、追いつ追われつの危険なゲームを始めたのだ。私は、結果がどうなるにせよ、ただじっと待って、出来事が進行していくのを放置するような人間ではない。そんなことは、先物商品を扱うトレーダーは行わない。私は、私の身に打ちおろされようとしている「ハンマー」の正体が何であり、誰がそれを打ちおろそうとしているのかを、自分で見つけ出す覚悟を決めた。
私のサイドには弁護士と調査士がいる。ふたりには「リサ」については何も明かしていない。少なくとも、今はまだ。弁護士は、私に警告してくれたばかりなだけに、「リサ」のことを明かしたら、心臓発作を起こしてしまうだろう。
マスコミを利用することもできない。公になることこそ、あらゆる犠牲を払っても避けようとしていることだ。もし、この時点で「リサ」の話しが明るみに出たら、陰謀をたくらむ者たちは大喜びで素早く襲いかかり、仕組んだことを達成するだろう。
警察に頼ることもできない。警察は、社会一般よりも、トランスジェンダーに対して虐待的に動くものだから。それはダイアナやリンガーズの女の子たちから充分に学んだことだ。警察からしたら、「リサ・レイン、副社長」は、歴史的ともいえる規模のTガール詐欺と見るだろう。一方で、ジェフ・スペンサーはシカゴに住むマッチョども全員にとってアイドルのような存在である。特に胸にバッジをつけてる者たちにはアイドルだ。私がジェフたちの犯罪的な行為を示すがっちりとした証拠を出さない限り、シカゴ警察は、私ではなくスーザンとジェフの側に立つ可能性が高い。
そういう証拠を手に入れるためには、陰謀を働いている者を表に引きずり出さなければならない。そして、それをするには、何か餌をまく必要がある。釣りをするように。実際、トレーダー業界は、壮大な釣りをする仕事ともいえるが。
大物美容整形医師について、ロブには個人的な知り合いはいなかったが、ジムには知り合いがいた。ジムの別れた妻が、良い医者を知っていて豊胸手術を受けたのである。ロブは太鼓判を押し、ジムは早速、電話を入れた。シカゴは、影響力のある人間なら何でも融通が効く街だし、ロブとジムには影響力がある。まさしくその通り。話しがでた、当日、午後5時。スーペリア通りの病院で診察を受けることになった。