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再生 (9) 

俺はピックアップ・トラックのキーを握り、もう一度、鏡の前で自分の姿を見てみた。

鏡の前で2、3回、キュートなポーズを取った。俺自身の姿ながら、すごく可愛いじゃないか! 思わずくすくす笑ってしまった。こういう女の子っぽい仕草がとても自然にできてしまう。俺の頭の中には元々、こういう部分があったのか? それを閉じ込めていたドアをあの生き物は開放してしまったのか?

鏡を見て、濡れたままの髪にブラシをかけていなかったことに気がついた。そこで車のキーをポケットに入れ、ブラッシングを始めた。

いろんなヘアスタイルを試してみたが、すぐに、ちょっと髪を切った方がよいことに気がついた。しなければいけないことのリストに散髪を加えておこう。

結局、ちょっとウェーブがついた髪を自然に真中から分けたスタイルにして、玄関を出た。

玄関のカギをかけ、俺のシボレー・アバランチ(参考)へと向かった。歩いていると、隣に住む男が呼ぶ声が聞こえた。

「よう! 娘さん!」

声の方向を向くと、俺の家との境界になってる生垣の向こう側、スコップに寄りかかった隣人のジェフが見えた。俺はニッコリ笑って、彼に返事した。

「よう! おっさん!」

ジェフは、俺の返事にげらげら笑い、答えた。「ずいぶん口が悪い娘さんだな。あんた、誰だい?」

おっと、予想したより早かったな。計画した嘘を試さなければならない時が来るのが、と思った。

「ベンの従妹のアナスタシアです。ベン叔父さんは離婚してからすごく気分が落ち込んでしまって、いつ帰るとも決めない旅に出かけたんです。それで、私を呼んで、旅に出ている間、家に住んでいいと言ってくれたので…」

俺は前から、アナスタシアという名前が好きだった。それに、語源的に「生まれ変わり」を意味するらしい。それを覚えていたので、この状況にふさわしいと思って使った。

俺の話しを聞いて、ジェフは心から悲しそうな顔をした。

「旅に出る前に俺にサヨナラの挨拶をしてくれたらよかったのに。だが、あいつの気持ちはよく分かる。俺も妻に逃げられた時は1ヵ月は落ち込んでいたしな。それに俺の場合は、自分から招いた離婚だったからな。ベンの場合はベンに責任がないだけに落ち込み具合も深いだろう…。まあ、ともかく、これからはあんたとお隣同志というわけだ。今後ともよろしくな!」

「ありがと! またね!」

俺はニッコリ笑って、手を振り、車に向かった。車のドアを開けたが、乗り込むのに、まさによじ登るって感じだった。車がやけに高かったからだ。

運転席に乗り込み、ほっとひと安心し、それから座席の位置を調節し始めた。ただ、座席位置を調節しても、ペダルに足をつけるのがやっとだし、ハンドルの向こうも楽には見渡せない。こりゃ、新しくもっと小さな車を買わなければいけないなと思った。

20分ほどドライブし、目的地のモールに着いた。まずはフード・コートに直行した。腹が痛いくらいに空腹になっていたからだ。

アジア料理に行き、バイキングを注文し、プレートを抱えて、料理を取り始めた。

多分、まだ自分が男だと思って料理を取ったのだろう。プレートの料理をガツガツ食べ始めたのだが、たった4分の1食べたところで満腹になってしまい、あとは時々つまむだけになったのだった。

俺の席はひと目につかない隅のところだったので、そこに座ったまま新生活に向けての計画を実行に移すことにした。

まずは携帯を出して、親友のサラとデイブに長いメールを送った。俺がいつ帰るか決めずに街を出ることにしたことを説明し、若い従妹が俺の家に住むことになったので、ときどき様子を見てくれと頼んだ。その従妹はアナスタシアと言って、小さな田舎町から出てきた娘だと。俺の旧友たちにアナスタシアを紹介して、街に馴染むよう助けてやってくれと。

次に、俺の軍隊時代の友人であるガスにメールを送った。ガスは情報関係の任務についていて、偽造IDを作ることができることを俺は知っていた。

まずは作り話を考えた。ある女性の知り合いがいるのだが、旦那がDV夫で、そいつから逃れ、新生活を始めるために新しいIDが必要だという話しだ。

ガスはすぐに返事をよこしてくれた。IDを作るのは可能だが、カネがかかると言う。親友や家族だから値引きしても高額になると。それに、その女と会う必要があるとも言っていた。会えるのは今夜。そうでなければ海外に行くので5週間後になるという。

俺は今夜でOKだと返事した。ついでに、その女の子はマジでイイ女だが、もしその女に何かしようとするなら、まずは俺に話しを通せと付け加えた。そんなことを書くのは変な気がしたが、書いとかないといけないと思った。ガスは無類の女好きなのだ。結構イイ女になった俺に会ったら、何か釘をさしておかないと、ガスは絶対に俺に手を出してくるに違いないと思ったのだ。


[2013/08/22] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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