6年目ディアドラの話し時々、私たちは家族そろってニュースを見る。ウチは、あまりテレビを見せないことにしている。アンドリューはスポーツ・イベントをいくつか見るし、私たちは古い映画(たいていはビデオテープかDVDでだけど)を見る。その他は家族そろって、あるいは子供たちだけで見るのに適切な番組を選択している。たまに、ニュース番組もそのような番組に選ばれる。
地元のニュース番組は絶対に見ない。地元ニュースは暴力と火事ばかりだから。視聴率が示すところによれば、地元ニュース番組とはニュース番組ではなく、娯楽番組であると言える。ホモ・サピエンスの中の何割かは、悲しいことに、隣人に降りかかった悲劇的出来事は娯楽に思えるらしいけど、私たちはそういう人たちとは違う。
時々、世界のニュースも見る。もっとも、アンドリューは、アメリカのネットワークによる番組は政府の意向に「影響されている」のが多いと言って、BBCワールド・ニュースを見るのを好んでいるけど。多分、彼は誇大妄想になってるのだろう。
その日も私たちはニュースを見ていた。とても、とてもイギリス英語の訛りがきついアナウンサーがこう言った。
「…ボツワナからのアメリカへの大使が、合衆国国務省を訪れ、小麦配給による合衆国の援助を、本年中は中止するよう求めました。援助される小麦の量が、ボツワナにおける貯蔵施設の能力の限界に達した模様です。他に小麦を貯蔵する場所はないとのこと。情報筋によりますと、コンピュータの異常作動の結果、ボツワナに送られる穀物の量が5000万ドル分から5億万ドル分に増加されてしまったのが原因とのことです」
娘たちは床に寝転がってニュースを見ていた。エマがニュースを見てコメントするのが聞こえた。
「ボツワナの人たちサンドイッチが好きだといいけどね。ピーナッツバターやゼリーも使うといいのに」
エマがそう言ったとき皆で笑ったが、アンドリューだけは笑わなかった。そのアンドリューが突然、こう言って、私は驚いた。
「エミー、国務省には手をつけるな。いい? 聞こえた?」
エマは無邪気な顔で振り返り、「はい、パパ」 と言った。
ニュースは続いていたけど、2分くらいした後、じっとテレビを見ていたアンドリューが口を開いた。
「いくらだ?」
彼が何を言ってるのか分からなかった。「いくらって、何が?」
アンドリューは私を見ず、ずっとテレビを見つめたまま。
「エミー、ほら、いくらなんだ?」
私と同じくエマも「いくらって、何が?」
「ピーナッツバターとゼリーをいくらボツワナに送ったかを訊いてるんだよ」
私は笑い出した。こんな間抜けな質問、聞いたことがない。
でもエマはその質問を真剣に受けとめた。「そんなおおくないよ、パパ。たった30トンだよ。それぞれについて」
それを聞いてアンドリューは姿勢をただした。「ボツワナに合計50トンもピーナッツバターとゼリーを送ったのか?」
エマはまだ無邪気な顔をしていた。「でも、ボツワナの人たち、これからたくさんパンを作るわけでしょう? そんなにたくさんのパンをどうするかってことになるんじゃない?」
ドニーが訊いた。「そもそもボツワナでPB&Jを食べるの?」
「今は食べてるよ!」 とエレが答えた。
これまでの人生で、これほどショックを受けたことはなかったと思う。私の7歳になる娘が世界中の知らない国々にピーナッツ・バターとゼリーを送っていたなんて。いったいどうやって? それに、いったいなぜ? どうして、そんなことをしたの? でも、アンドリューはショックを受けた様子でも、驚いた様子でもなかった。
彼は、諦めた表情を浮かべながら、椅子にどっかりと座っていた。
「エマ? 手を引いてくれる?」とアンドリュー。
「オーケー、パパ」とエマ。
この話題はこれで終わったと思った。