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無垢の人質 第11章 (5) 


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イサベラは毛織のズボンを履いた。脚がむず痒い。男の人はこういうのを履いて居心地が悪くないのかしらと思った。それでも彼女は自ら進んでこれを履いた。村のはずれにいる親類を訪問する母親に付き添う少年の扮装をするためである。

イサベラは、マリイが農民から馬を買うあいだ、後ろに引きさがってそれを待ち、その後、マリイとそれぞれの馬に乗り、マリイが指示する道を進み始めた。

何事が起きても動揺してはいけない。マリイを信頼することはできないのは分かっている。それでも、イサベラは自分の命をマリイに預けた。マリイが寝返り、自分を父に引き渡すかもしれないが、マリイに渡した金塊が充分であればと願った。これが賭けなのは知っている。うまくいけばいいと祈るのみだった。

その前夜、レオンは帰ってこなかった。おそらく、朝か翌日までイサベラがいなくなったのに気づかないだろう。彼は激怒するかもしれない。でも、その怒りを喜んで耐えるつもりだ。もしこの計画が実を結んだら…。もしマリイが裏切らなかったら…。

イサベラは鞍についてる物入れからリンゴを取り出し、不安げにそれにかぶりついた。そろそろ正午だった。空を見上げ、陽の光を顔に浴びた。心地よく暖かだったが、彼女の不安をなだめることは少しもなかった。

~*~

レオンは廊下を大股で進んだ。革の手袋を手から引き抜きながら。長時間、馬上におり、ひどく消耗していた。その間ずっと、イサベラが自分の前で自らを慰めた光景が頭に浮かび続け、それによっても苦しめられた。

部屋の前に来て、付き添っていた衛兵たちを解散させ、ドアを開けた。あの甘い香りを鼻から吸い込む。イサベラの香りと分かるあの香り。そして、レオンは気づいた。その小部屋に愛しい妻がいないことを。

レオンはチュニック(参考)を頭から脱ぎ、ベッドに腰を降ろした。すぐに浴槽が来るだろう。それにイサベラも、俺が帰城したと聞いて駆けつけてくるのは間違いない。そうしたら、イサベラにしっかり教え込んでやる。あのようなことをして俺を焦らしたら、どのような結果になるのかを。

ブーツを引き脱いでいる時、一枚の羊皮紙が、イサベラのブラシと香水瓶の間に挟まっているのが目に入った。

レオンはそれを取り、書かれた文字を追う。そして心臓が高鳴るのを感じた。

「私を許して、レオン。私は、あなたが求めるような従順な妻ではいられないと分かったの。あなたが戻ってくるのを辛抱強く待っていることができないと分かったの。私の手でしなければいけないことがあるのです」

レオンは固唾を飲んだ。


[2013/09/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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