「先に行っていいよ」 と俺はバルに言った。実を言うと、板張りの通路を歩く時の彼女の後姿、それにハイヒールによる、コツコツコツという音に催眠術をかけられたような気分になっていたからだ。
すぐ後ろをついて歩いていると、バルは板道の端まできて、そこで立ち止り、蹴るようにして靴を脱いだ。そして手に持っていたビーチサンダルを落とし、そこに足を入れ、腰をかがめてハイヒールを拾い上げた。
そして俺たちは岩陰への砂浜へと進んだ。歩きながら、ふたりとも無言のままだった。砂は足に柔らかく、海から陸へと吹くそよ風が気持よかった。ようやく、岩陰へ着き、バルは立ち止った。
「ここ良い場所ね」 と俺を振り返り、俺の瞳を覗きこむ。
まだピンク色のショートパンツと白いタンクトップの姿でいるバルだ。もちろん俺が見たいのはその中に隠された姿なわけだが。
俺は砂に座り、ココナツオイルの瓶を置き、ブランケットを出した。バルには反対側を持ってもらい、ふたりで広げる。うまく敷き広げ、飛ばないようにした上で、ふたりでそこに横になった。
「私たちがほとんど裸同然で一緒にここで横たわってるのを見たら、トリスタ、何て言うと思う?」
バルはそう言って、ビーチサンダルをブランケットの隅のところ、セクシーなハイヒールの隣に放り投げた。俺も靴を脱ぎ、素早くシャツを捲り上げ、頭から脱いだ。
「バルはトリスタが何と言うと思う?」 と俺は訊き返した。互いの視線が合って、見つめあう形になっていた。
「素敵なカラダしてる……」 とバルは俺の胸板に視線を落として言い、また目を上げて俺を見つめた。
俺は辺りを見回した。波打ち際で行ったり来たりしてる人がふたりほどいたが、他には誰もいなかった。
俺はカットオフ・パンツのボタンを外して、かかとまで降ろした。そして蹴るようにして、素早く脱ぎすて、腹這いになった。
「僕にココナツオイルを塗ってくれる? そうしたら僕も後で君に塗ってあげるから」 大胆にそう告げ、バルにローションの瓶を投げ渡した。
頭を横にし、片頬をブランケットにつけ、腹這いになる。俺は波打ち際で遊ぶ人たちを眺めた。
急にバルが俺の背中にまたがるのを感じた。ココナツオイルの瓶のふたが開けられる音が聞こえる。そして次の瞬間、ひんやりとした液体が背中に垂れてきた。どろっとした感じだ。バルが瓶とタオルを横に置く音が聞こえ、その後、彼女の指が背中に触れるのを感じた。手でローションを肌に擦りこんでくる。
「うーむ…」
バルが本格的に背中全体に擦り込み始めるのを感じ、俺は小さく唸り声を上げた。