ディアドラの話しそれは私が予想してたこととは違った。私たちが愛しあいたくなると、その行為は激しく求めあう形になるのが普通だった。アンドリューは強引に私たちを奪い、私たちも彼を強引に奪う。そうして強烈なオーガズムになるし、情熱も激しく、時には失神してしまうほどになる。だけど、この時は、そういうのとは違った。
アンドリューは私たちをベッドに寝かせた。そして、優しく私たちの服を脱がし始めた。本当にゆっくりと、そして優しく……。それからとても愛情をこめて優しくキスをしてくれた。しっとりとしたキス……。とてもロマンチックだった。
私たちは若くはない。中年にさしかかったカップル。いや、カップルと言うのはおかしくて、3人組だけど、言葉なんか、どうでもいい。そんな若くない男女なのに、愛は深く、純粋だった。私たちの間に起きた様々なことを経てもなお、生き残り続けた愛情。
彼はとても気を使ってくれて、優しく、愛情豊かだった。そして私たちも彼に同じように愛情深くお返しをしてあげた。私たちの愛は、すべての女性が若かった頃に夢見るような愛と言える。どんな女性も若いころに夢見るけれど、それを達成できる女性はほとんどいない。そんな愛。
アンドリューとドニーと私。この3人は永遠なのだ。無意識的に、この愛が失われるかもしれないという不安を持っていたが、それは所以のない不安だった。あらゆるホモサピエンスが抱えている種類の不安。ホモサピエンスは真に孤立している。そのために感じる種類の不安。孤立した存在であるために、自分が愛されていることを、相手の行為によってしか知ることができないホモサピエンスの感じる不安。
そう思ったときだった。ハッと気づいたことがあった。私の理論だ! 私自身で気づいた、私の理論!
私は突如、気づいたのだ。つまり、アンドリューのもう一つの不安、ずっと前から彼が感じていた不安、すなわち私たち夫婦についてではなく、新人類についての彼の不安のことだけど、その不安がまったく根拠のないものだと。
なぜなら、私たちの子供たちは愛を知ってるから! 子供たちには、愛は抽象的な概念ではなく、物理的な実在物なのだ。ホモサピエンスは誰でも、愛することがどんなことかは知っている。だけど、愛されることがどんなことかは本当には誰も知らない。
だけど、新人類である娘たちは、他の人の愛を感じることができるのだ。ドニーも私も無条件に娘たちを愛している。でも、アンドリューは! アンドリューは、私が知る他の人には誰もできないような愛を行うことができる。娘たちは常時、アンドリューの愛に包まれていることを感じているに違いない。娘たちは、彼のおかげで、私たち3人のおかげで、安全だと、守られていると感じている。
愛がホモサピエンスを救うだろう。新人類は、私たちを愛するゆえに、私たちが愛するゆえに、私たちホモサピエンスのことを気づかうだろう。新人類の世界は、共感が単なる概念ではなく、一定不変のものとしてある世界だ。私たちも世界がそうなってほしいとずいぶん前に願った。そんな世界が娘たちの世界。私には分かる。
人を傷つけたい衝動、支配したい衝動、虐待したい衝動…。それらは孤立していることからのみ生じる。新人類の場合、誰も孤立する人はいない。
アンドリューが心配顔で私を見ていた。
「どうしたの? 100万キロも彼方に飛んでいたような顔をしているけど。どこか具合が悪いの?」
私は微笑んだ。とても幸せ! 現実であれ思い込みであれ、意識してたものであれ、無意識のものであれ、私が感じていたあらゆる不安が、今日、この時、終息したから。
「どこも悪くないわ、アンドリュー。すべて問題なしよ! 今すぐ、私たちを愛して! 後で話すから。世界は素晴らしいものに変わるわよ! 私たちにとってだけでなく、あらゆる人々にとっても!」