私は、アンジーとダイアナが鉢合わせしてしまう可能性が一時的にせよなくなったのを感謝した。でも、よく考えると、ふたりを鉢合わせさせる必要があるのかもしれない。そうやって、無理やりどちらかに手の内をさらけ出させるのだと。もちろん、ふたりのどちらかがジェフ・スペンサーと手を組んでいるならの話だけれども。
ともあれ、私のプライベートな生活にかかわってる人の中、陰謀に加わってそうな人は誰もいなかった。少なくとも、それをほのめかすような情報はこれっぽちもなかった。私の公的な面でも同様に情報はまったくなかった。これは本当に、あのクォーターバックのジェフが必死になって仕組んだ策略なのだろうか? おいおう、もういい加減、顔を出せよ! 餌をいま以上に熟れて、ジューシーで、よだれが出そうにするなんて、できないんだから。いや、でも、ちょっと待って。ひょっとすると、もっと魅力的な餌を用意できるかも……
ロブとジムは社会慈善事業活動をしていて、毎月第3土曜日がそのようなチャリティを行う日だった。シカゴ市長をはじめとして、たいていの市の重鎮が集まる。その中には様々なスポーツのフランチャイズにかかわる人々も含まれる。
そして、その重鎮が男性の場合には、アンジーと私がエスコート役になることになった。実は、ロブとジムは、木曜午前の重役会議で、まさにそうなるように仕向けたのである。ふたりは私たちの反応を見て、呆気にとられた。
「不意打ちの招待だって言うけど、どういう意味?……ふさわしい服に着替えるのに3日もかからないだろ? ……職場でライフルを乱射した男とかっているよね?……」
私もふたりの魂胆が見えてきた……。
でも、ともあれ、その時点では私はもっと大事なことを考えていた。私には着ていくドレスがないということ……いや、あったかしら?
そのドレスを100回は見つめていたと思う。クローゼットに釣り下がってるあのドレス。罪悪感についての話を聞きたい?
私はダイアナに教えられた電話番号に伝言メッセージを残した。でも、彼女はまだ返事をよこしてくれてない。確かに、ミシガン通りを車で流せば、何か他のものを見つけられたかもしれない。でも、なぜか直感がくすぐられる。このドレスには何かある。展開しつつある陰謀に何らかの意味合いを持っている感じがする。だから、このドレスこそが完璧なチョイスだとしか思えなかった。これが私の場合の「マルタの鷹」なら、どうしても着ていきたい……
そしてそれを着た。
あらまあ! ちょっと、これ、似合いすぎかも。
すでに全行程を済ませていた。美容室に行って、赤い子牛革のコルセットを締めて、それにマッチしたソング・パンティを履いて、薄地の黒いストキングと、あのドレスを身につけ、仕上げにアクセサリ類をつけた。コートはいらない。5月にしては例年になく暖かい日だったから(シカゴでは6月の第2週に雪が降って、7月の第4週に30度以上になるのも普通)。このドレス、胴まわりが過剰なほどふわふわしていて、スカートのところはお尻を気持ちよく包んでる。
そう。鮫どもに餌を撒くとしたら、中途半端じゃダメ。