ケンが出たのを見届けた後、アンジェラは勢いよくドアを開け、ゲンゾーに食ってかかった。
「ちょっと、あなた! 何をしたか分かってるの?」
「私は命じられたことをしただけです」 とゲンゾーはノートパソコンから顔も上げずに、平然と答えた。
頭に血を登らせたアンジェラが、ゲンゾーに説教しようとしかかった時、ノボルが彼女の後ろに近寄った。
「ゲンゾー、食事をして来なさい。30分以内に戻ってくるように」
ゲンゾーはお辞儀をし、待合室から出て行った。
アンジェラは勢いよく振り返り、ノボルと面と向かった。
「彼があなたを呼んだんでしょ?」
ノボルはアンジェラが韓国人の癇癪(
参考)を燃え上がらせるのを見てワクワクした。彼女がそんなに怒るのを見て、微笑みがこぼれてしまいそうになるのを何とか隠した。
「そうですよ」 とノボルはドアを閉めた。
「ノブ? 彼、ケンをあんなに乱暴に扱う必要なかったのに!」
「ゲンゾーは私の要求を真剣に考えてくれたのです。ゲンゾーはケンのことを知らなかったし。私が知らない人は誰でも、あなたの安全にとって害とならないと判明するまでは、脅威になる存在なのです」
ノボルは胸の前で腕を組み、当然のことと言わんばかりの顔でアンジェラを見た。アンジェラは、カーッと頭に血を登らせ、噛みついた。
「だったら、配達業の人なんかはどうなるの? ゲンゾーは知らない人だからと、配達人にも攻撃するの? そんなことさせられないわ!」
アンジェラはくるりと後ろ向きになり、片手で顔を覆い、もう片手を腰に当てて、溜息をついた。
「ゲンゾーにはもっと丁寧に対処するよう、言いましょう」 ノボルは両腕でアンジェラを包み、前を向かせた。「だから、お願いです。怒らないでください。これは私にとっても初めてのことなんです。私は、あなたのプライバシーを尊重しつつ、あなたを守ろうとしているんです。でも、不慣れなところがあって…」
ノボルは彼女のあごに手をかけ、上を向かせ、そして小さな声で「ゴメン[Gomen]」と言った。
アンジェラはノボルの誠実そうな青い瞳を覗きこみ、苛立った気持ちが溶けてなくなるのを感じた。「大昔に私を失ったときのこと、本当に恐ろしいことだったのね」
ノボルは前夜の夢を思い出した。「あなたを守り切れなかった自分が決して許せないのです。絶対に同じ過ちを冒すことはできない」
ノボルはアンジェラをきつく抱き寄せ、感情のこもったキスをした。