その日の最後の患者の診察を終え、アンジェラは持ち物をまとめ、待合室へのドアを開けた。
「ゲンゾー、今日のあなたの仕事は終了よ」
ゲンゾーはノートパソコンをかばんにしまい、立ちあがり、頭を左右に振った。
「私の仕事は、あなたをノボル様へ配送するまで終わりません」
「配送? ゲンゾー、私はピザじゃないわ!」
「私のつたない英語については、ご容赦お願いします、アンジェラさm…」 ゲンゾーは、アンジェラが不満そうに目を細めるのを見て、途中まで言いかけて、言いなおした。「…アンジェラ」 …ああ、この人は、怒らせると大変だ…。
アンジェラは溜息をつきながら、電気を消し、「しっしっ!」と言ってゲンゾーを払いのける仕草をした。
ゲンゾーはアンジェラに懸念を抱いていたが、自分より30センチ近く背が低いこの女性が、無愛想に自分にどけるよう命じた仕草に、思わず笑みを漏らした。
ふたりは黙ったままエレベータに乗り、ノボルの部屋へと向かった。そして、ゲンゾーはアンジェラがノボルの部屋の鍵を開けるのを見届けたところで、静かにお辞儀をし、無言のまま立ち去った。アンジェラはエレベータに戻るゲンゾーの後姿に舌を突き出し、それから部屋の中に入った。
玄関フロアに入ったが、そこにはノボルの姿は見えなかった。ベッドがあるアルコーブのの方から、彼の声が聞こえた。
「コッチ、コッチ[Gochi, gochi]」
アンジェラは、階段を登り、ベッドの上、ノボルが横になっているのを見た。彼の前には3匹の子猫がそろっていて、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「ええっ!? いったいどうやって? スノッティは他の子と違って、簡単になつかないのに!」
「スノッティ君とは互いに理解し合えたんですよ」 とノボルは胸の上に座り喉を鳴らすスノッティを見ながら言った。「ネー[Neh]、スノッティ君?」 スノッティはゴロゴロと喉を鳴らしながらも、ただ目を閉じた。
「理解しあえたって、どんな理解を?」 とアンジェラは興味深そうな顔をした。
「譲歩したんです。この家を実際に仕切るのはスノッティ君だと。スノッティ君は私に一部なら担当してもよいと許可してくれました」
ノボルはそう言って、猫のあごの下の白い部分を優しく引っ掻いた。スノッティは頭を傾け、もっと自由に引っ掻いてもらえるようにした。
アンジェラはベッドの上、ノボルの隣に腰を降ろした。そして今や猫たちのソファに化したノボルの姿を見降ろした。
「ほんと、信じられないわ」
ノボルは指を一本立てた。アンジェラに動かないよう指示する仕草だ。
「ミテ[Mitteh]…」 とノボルはスノッティをじっと見た。「スノッティ君、オネガイシマス[onnegai shimasu]。あなたのお母さんにお帰りなさいのキスをしたいのです」
するとスノッティは気だるそうに背を丸め、あくびをし、ノボルの胸から飛び降りた。そして、床に落ちていた毛玉を蹴って遊び始めた。すぐにインとヤンも加わって遊び始める。
猫たちがベッドから降りるとすぐに、ノボルはアンジェラの身体を抱き寄せ、仰向けに倒した。そして彼女の上に覆いかぶさり、首筋に顔を押しつけた。
「あなたの香りが好きです」 と鼻から息を吸って言った。「この香りを嗅ぐと、あなたに私の印をもっと残したくなる」
「ほんと、あなたって信じられないことばかり」 とアンジェラは笑い、ノボルを抱きしめた。
「今日は、あの後、どうでしたか?」 とノボルはアンジェラのブラウスの中に手を入れながら尋ねた。
アンジェラは両手でノボルの顔を挟み、苦笑いした。「ゲンゾーは私のことをあまり好きじゃないみたい」
ノボルは、彼女の言葉を面白く聞いた。「ゲンゾーは誰に対してもそうなのです。それが彼にとって普通のことなのです」
手をアンジェラのレースのブラジャーの中に滑り込ませ、ツンと立った乳首を親指と人差し指でつまみ、くりくりと回した。それを受けてアンジェラは小さく身体を震わせた。
「そう言うなら…」 とアンジェラはノボルの背中で両手の指を組み、さらに彼を抱き寄せた。