車が止まってるのに気がついた。男たちがドアを開け、車から出て行く。
あたしはすごく恥ずかしいことをしてしまった気持だったけど、ようやく終わったので、ほっと溜息をついて、スカートを直し、ブラウスも元に戻して乳房を隠した。
辺りを見回して、その店を見た。薄暗い木造の建物で、入口の上にネオンサインが光ってる。「紳士クラブ:マックスズ」
いやっ、ストリップ・クラブだわ! フランクたちはあたしをストリップ・クラブに連れてきたんだ!
フランクたちは歩き始めたけど、あたしは足がすくんで歩けなかった。すると変態のひとりがあたしの手を握り、ぐいぐい引っ張り始めた。本当にこんなところに連れて行かれるんだと思い知らされる。
意識が朦朧とした状態のまま、変態男に引っぱられていた。車の中で自分がしたことが信じられない。こんな場所に連れ込まれそうになっているのが信じられない…。
さらにイケナイことをしてしまう前に、この状態から抜けださなくちゃ。どうしたらそれができるか、頭の中、高速回転で考えていた。いま希望があるとすれば、娘のクリスティだけ。クリスティがあたしを救うために計画を考えてくれているはず…。あたしはハンドバッグを探した。でも……なくなってる! ああ、どうしよう! 携帯電話がないわ!
「フランク、車に戻らせて。中にハンドバックを忘れてきたの」 と入口の3メートルほど前のところで立ち止った。
店の中から何人か男たちが出てくるのが見えた。まるであたしがストリッパーの仕事をしに来た女かのように、あたしをじろじろ見ていた。
「分かった。取りに行こう」 とフランクはいらいらしながら言った。
車の中を全部探したけど、バッグはなかった。車の横に立って、手を額にあてて考えた。思い出したわ。バッグはデパートの着替え室の中にパンティと一緒に置き忘れてきたんだわ。フランクに、この新しいパンティに履き替えるように言われて、置き忘れてしまったんだわ。ああ、なんてこと? これからどうしよう!
「戻らなくちゃ。デパートに置き忘れてきたのよ」
フランクは唖然としてあたしを見ていた。
「本気で、またはるばるモールまで戻るって考えてんのか?」
このバカ男。ほんとに最低男! この男、自分と自分の変態妄想のことしか考えていない!
「中に携帯やら身分証明書やら、全部入ってるのよ。あたしを連れ帰る気がないなら、タクシーを呼ぶわ」
「ケイト、ケイト、ケイト……。お前は自分の置かれた立場を忘れてるな。俺の言うとおりにしないなら、あの素晴らしいモロ写真、お前の旦那のところに行くんだぜ? うーむ、旦那ばかりでなく、お前の友だちや子供たちにも行くかもな。自分の母親の正体がどんなだかトミーにばれてもいいのか?」
マジでこの男を殺したい。指の爪を目玉に突っ込んで、引っこ抜いてやる!
この男を激しく憎んでいたけど、何が問題になってるかは分かっていた。あたしの夫との関係と家族のことが関わっているのだ。
トミーのことも、トミーを失う可能性も考えた。そしてあたしは、突然、背筋を伸ばして、かろうじて残っていた少しばかりのプライドを奮い起こして、フランクの前を通り過ぎ、ストリップ・クラブへと歩き出した。避けることができない運命の場所へと…。後ろでフランクが低い声で笑ってるのが聞こえた。
黙ったまま、変態どものところへ進んだ。連中は飢えた目であたしの身体をじろじろ見ながら立っていた。フランクがあたしの横にきて、あたしたちは皆、フランクに続いて中に入った。
狭い廊下を進み、男たちの列の後ろに並んだ。入場料を払う場所だった。メイン・フロアの様子を見ると、若い女の子がふたり、別々のステージの上でスピーカーから流れる大音量の音楽に合わせて踊っていた。ふたりとも一糸まとわぬ姿。
女の子たちは、ときどき誘惑するように前屈みになって、女の大事な部分を見せていた。全裸なのに、よくこんなことができると驚いた。パンティも履いてないのに。ここは完全ヌードの店なんだとすぐに分かった。