彼と一緒になれて私は幸運だったと思った。彼はとてもハンサム。ほとんど可愛いと言っていいほど。それに、彼は誰よりも私を愛してくれた。私はずっと前からとても内向的な女だ。それに、何といっても、私の生活は仕事ばかりになっていたし。私は、これでいいのよと自分に言い聞かせていた。もちろん、それは間違っている。これでいいという人間は、いつも間違っているものだ。
仕事。仕事のせいで私は非常に多くの交際の機会を奪われていた。そして、その仕事が私が本当に手に入れた唯一のものを破壊してしまったのだ。その仕事からどんなことが帰結として出てくるか分かっていたら、そもそも、それを開始しなかっただろう。医者か弁護士になっていただろうと思う。何か無害なものに。でも、その時の私には後でどんなことになるか知ることはできなかった。生化学での私の仕事が私にどのような道を進ませることになるのか、その時の私には分からなかった。
最初は、とても無邪気なもののように思えた。広告業界は何年も前から人々を操作しようとしてきた。私がしてることなんて、それより悪いと言えるの? 同じじゃない? 確かに、いかがわしいところがあるけど、でも、脳が暗示を受容する性質を増幅する薬の用途を考えてみて? まぎれもないマインドコントロールが簡単にできるとしたら、それをやめられる人がどれだけいるかしら? 私にはできなかった。
この薬は、真のマインドコントロールに向けての数多くの研究における最初のものだと思った。政府は、この薬剤をテロの容疑者を尋問する際の非侵入性の手段と判断した。容疑者にこの薬剤を与えれば、真実を話す、と。大人気! たくさんの人命が救われる。
とにかく、私は少し……この薬のテストに夢中になりすぎていた。そして、この薬を夫に与えたのだった。単純なテストのつもりだった。長期にわたるようなテストのつもりではなかった。でも、前に言ったとおり、私はやりすぎてしまったのだった。
「もっと髪が長くすると素敵だと思うわよ」
私は夫に薬を与えた後、言った(もちろん、彼に分からないように投与した)。ちょっとした遊びのつもりだった。後になってから、笑って話せるようなことのような。