あの時点では、私はあまりに自分に誇りを持っていて、ただただテストを続けることしか頭になかった。もし、あなたが望むことをどんなことでも誰かに実際にさせることができたら、あなたならどうする? すべての女は自分の男を変えたいと思っている。これはありきたりのフレーズだけど、でもこれは真理。彼氏の身体的なものせよ、性格的なものにせよ、可能なら変えたいと思うところが必ずあるもの。思うに、これがこの件のすべての根本原因だと思う。
多分、この薬剤の使用プログラムについてもう少し説明しておくべきかもしれない。小さな事柄については、この薬だけで十分である。でも、実験したところ、本当の変化をもたらす唯一の方法は、薬にあわせて、長期にわたってサブリミナルにメッセージを送り続けることであると分かった。たとえば、誰かにハンバーガーでなくサラダを食べたい気持ちにさせたいとする。(よほどの肉食好きの人間でなければ)おそらく薬の投与で充分である。しかし、もし、その同じ人間に、今後いっさい肉食をやめさせたいと思ったならば、先のようなサブリミナルなメッセージを合わせることが必須になる。そして、その場合でも、その変化を恒久的なものにするには数週間から数か月必要となる。
ちょっと、話しを先走りし過ぎてしまってるような気がする。そもそも、私がどうしてあんなことをしたのか、私自身どう説明していいか分からない。それに私には、その変化をどう描写してよいか、その言葉すら知らないというのが実情だ。…だから、私は説明しないことにする。その仕事は私でなく彼にさせてあげることにします。最初に彼に「示唆」したことの一つは、日誌をつけることだった(彼が薬を投与されてる間、どんなことを感じるかの記録が欲しかったから)。そういうわけで、彼の日誌の記述に説明を譲ることにします。
……僕はずっと前から自分の筋肉について気にしすぎてきたように思う。というか、少なくとも半年前までは、気にしていた。たぶん、単に僕の嗜好が変わっただけかもしれない。長い髪の毛と同じように。ジェニーは僕の髪を気に入ってくれてるけど。少なくとも彼女が気に入ってるならいいさ。ともかく、これまで僕は自分が格好いいと思っていたけど、今はちょっと変な感じだ。…何というか、自分の格好。ジムでいつも気にしていた体のこと。いま思うと、僕は筋肉を鍛えるために一生懸命頑張りすぎていたように思う。実際、筋肉がついてきてたし。だけど、僕は充分、男なのだから、男であることを証明するために盛り上がった筋肉なんて必要ないんじゃないかと思う。
ほぼ27キロ。今朝、計った。今までしてきたことがこんなに成果を出すなんて、笑えてくる。前はどんだけ食べてたか思い出す…今はというと、サラダを食べて、それで完全にお腹いっぱいだ。正直、ジェニーの方が僕より食べている。食事とエアロビクスのコンボのおかげでまさにこの奇跡が起きた。毎日、ジムに行くと、男たちがあんなウェイトを持ち上げては、周りのみんなに、自分がいかに男らしいか誇示し、見せつけている。あれって、病的だな。今の僕はベンチプレスでやっとバーを持ち上げらてるくらいだけど、筋肉はこれ以上いらないと思ってる。あの男たちもいずれ僕のように覚醒するといいと思うよ。