生れ故郷。でも、ここが自分のホームと思うことすら、とても変に感じる。もう5年も帰っていなかった。なのに「ホーム」と言えるのか? でも、ここで僕は育ったし、高校に通ったし、初めてのガールフレンドと出会ったし、初めてのキスをして、初体験もした…ずいぶん前のことのように思える。
でも今の僕にとってのホームは、マイアミであって、ここミネソタ州ダルースではない。たとえこの地に僕の歴史がどんなにあっても。とはいえ、僕がいくら帰りたい気分がなくても、帰省しなければいけない時がある。少なくとも今回はジェニーがそばにいて、僕をサポートしてくれてるから、その点は気が楽だ。
空港で僕を見た時のママの顔。ママが何も言わなかったけれど、あの表情はママが言いたかったことのすべてを語っていた。でも、それは僕にはどうでもいい。ママが今の僕を受け入れてくれても、受け入れられなくても構わない。それはママの自由だ。
故郷の町に出ても、かつての知人に会いたいとは思わなかった。だけど、そういう期待って、えてして裏腹の結果になるものだね。実際そうなってしまって、最初に会ってしまった人は、僕の高校時代の彼女アビーだった。ママにスーパーマーケットに牛乳を買いに行かされたんだけど、そこで彼女と鉢合わせしてしまったのだった。アビーは最初、僕を認識できなかった。当然だ。でも、僕の目を見たとたん、分かったようだ。どんなに僕が変わっても、アビーは僕の目を見れば認識するだろう。
アビーは僕の変化のことを話題にしたくないようだった。それは僕にも分かる。でも、彼女の好奇心の方がまさったらしい。
「あなた、あの…、今は女の子なの?」
僕は笑った。どうして人は、僕が単に他とは違う男だという事実を受け入れることができないんだろう? どうして人は、僕がなにか性転換者のような者だという結論にすぐに飛びつくんだろう?
と言うわけで僕はどうして今の姿になっているか説明した。全部、説明した。多分、必要以上のことを言ったかもしれないけど、結局は、何を言っても変わらないだろうと思う。アビーは、かつてつきあっていたはずの男性を見ていなかった。ただ、自分がみたいと思ってることしか見ていなかった。
それにしても、少なくとも僕の服は彼女の服よりキュートなのは事実。アビーと再会した時、僕はこのピンクのセーターを着て、青いスカーフを巻いていた……