スティーブはバーバラのオフィスに向かっていた。昼休みに差し掛かっていた。彼女を、どこか手早く昼食をとれるところに誘おうと思っていた。バーバラに、彼女の裏切りがばれていることを知らせる時期が来たのだ。バーバラの職場の駐車場に車を入れたスティーブは、反対側の出口から最新型のフォード・サンダーバード(
参考)が出て行くのを垣間見た。
スティーブは、ポーターが最新型のサンダーバードを持っているのを知っていた。それはシルバーの色で、今、駐車場から出て行ったのも同じ色だった。単なる偶然だろうか? それにしてはできすぎている。スティーブは車が並ぶ通路を走り、反対側の出口に出た。そして、その先の大通りに目をやる。あのサンダーバードが走り去るのが見えた。
そのサンダーバードに追いつくのにさほど時間はかからなかった。追いつくのは難しくはなかったが、スピードを上げ、赤信号を2回無視し、遅い車をかわすためにレーンを何度も変えた時には心臓がどきどきしていたのは事実だった。半ブロックほど先の第1レーンに、問題のサンダーバードを見つけた彼は、車のスピードを落とし、しばらくの間、その間隔を保った。しっかりと落ち着かねば。
次の信号で止まったとき、スティーブはスポーツ・バッグからデジタルビデオを取り出し、その望遠機能を用いて、問題の車に乗っている者たちをチェックしようとファインダーを覗いた。バーバラだった。間違いない。信号が赤から青に変わるまで、録画のボタンを押していた。信号が変わりサンダーバードが発信する直前、車の中、彼女は男の頬にキスをし、親しそうに彼の頬を軽く叩いた。
交通量の多い道ではあったが、スティーブは徐々に例の車との距離を縮めていった。そして、あの不倫をする2人が乗る車の斜め後ろ、3、4台ほど間を置いた第2レーン上に来たところで距離を縮めるのをやめた。たいていの人々は、誰かに尾行されてるのではないかと、ミラーをチェックするようなことはしないものだ。ラファエル・ポーター氏もその一人だ。彼とバーバラ・カーティス夫人は、自分たちはチェックすべきであることすら知らなかった。
サンダーバードは、市内を流れる川に沿って作られた市立公園に入っていった。そして、川の流れのそばまで行き、そこで止まった。周りを取り囲む木々のため、道路からは見えない位置である。スティーブは自分のピックアップ・トラックを一種の物置と思われる建物の後ろに止めた。その物置は低い建物だった。車高が高いピックアップに乗っているおかげで、座席から背伸びせずに物置の屋根越しに向こう側がかろうじて見えた。
スティーブはビデオカメラを手にし、再び録画を始めた。時々、ピントがちゃんと合っているか、画面の真ん中にあの2人が写っているかを確かめる。
バーバラとミスター・馬鹿ポーターの2人はしばらくおしゃべりをしていた。キスが3回か4回。早くも軽いキスを始めている。その後、キスは熱を帯び始め、時間も長くなっていく。バーバラが身を屈めるのが見えた。次の瞬間、彼女は何かひらひらした白いものをダッシュボードの上に放り投げた。それを見たスティーブは、それまで封じ込めてきた怒りを突然、爆発させた。