「ノボル殿、スミマセン[sumimaseng]」
ノボルは書から顔を上げた。「イサム? どうした?」
丸岡イサムはノボルの前にひざまずいていた。
「政府に潜入させている我々の内通者が、アメリカと日本で条約が締結されたことを発見しました。桂太郎総理は、フィリピンに対する日本の権益と朝鮮に対するアメリカの権益を交換することに成功した様子です」
ノボルは筆を置きながら、3世紀前にユ・ソン・リョンが語ったことを思い出した。まさに彼が予想した通りだった。朝鮮政府における政治的腐敗と内部抗争のせいで、あの国は外国政府に侵略されやすい状態になってしまった。そしてノボルの国である日本が、再びあの半島に手を伸ばそうとしている。
「総督、すみません」とノボルは溜息をついた。
イサムは、主人であるノボルがどうして朝鮮の人々の事柄に興味を持つのか決して理解していなかったが、そのことを尋ねるようなまねはしない分別は持ち合わせていた。
「何か必要な情報はありますでしょうか、ノボル殿?」
「イヤ[Iyah]。立ち去ってよい」
「ある種のことは決して変わらないものだ」と彼は独りごとを言った。日本政府が最近、日増しに軍国主義的態度を取るように変わり、ノボルはこの国の運命について心配し始めていた。ガイジン[gaijin]のペリーが来航して以来、日本は西洋の拡張主義的的傾向に駆られている。ノボルは、明治維新により武士階級が駆逐された数年間に従者たちを集め、彼らとともに世間から身を隠す生活をしていた。もはや神聖視されるものは何もない。これからどんな世の中になっていくのだろう。ノボルには分からなかった。
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ノボルは、東京帝国大学の著名な科学者数名と会食を終え、信頼のおける部下たちと共に東京の街を歩いていた時、くぐもった悲鳴を聞き、立ち止った。
部下たちはノボルが急に立ち止ったのを見て、彼の気分が急に変わったのを感じた。
「どうした[Doshta]?」 とゲンゾーは小さな声で尋ねた。
「通りの向こうで何かが起きている」
ノボルはその悲鳴に意識を集中し、女性の声であることを知った。そして、その声が韓国語であることを知り驚いた。
「ゲンゾー、ついてきてくれ」
ノボルとゲンゾーは暗い横道に入り、その声の源に近づいた。家の窓から覗くと、中には兵士がふたりいて、ハンボク[hanbok](韓国の伝統衣装)を着た女たちを手荒に扱っているのが見えた。女たちは離してくれと懇願していた。
女のひとりが啜り泣きしながら叫んでいた。「お願いです! 家に帰らせて! オムニ[Uhmuhni](お母さん)!」
兵士たちは、女たちの悲鳴はまったく気にせず、笑いながら続けた。「こいつら何て言ってるか分からん。お前は?」 と兵士のひとりが別の兵士に訊いた。
「いや。だが、どうでもいいだろう?」 兵士たちは全員、下品に笑った。
「慰安婦をつけてくれるようになってから、陸軍での軍隊生活はずっと楽になったのは確かだからな」 とまた別の兵士が嬉しそうに叫んだ。「しかも、この女は新品ときてる!」
ノボルは、ひとりの男が娘の脚を強引に開かせるのを見た。その娘が抵抗しようとすると、男は彼女に平手打ちをした。男は強引に娘に挿入した。娘がおびただしい出血をするのを見て、ノボルは恐怖を感じた。この娘は処女だったのだ。男はことを終えると、ペニスについた血を拭い、ズボンを上げた。
「よし、仕事だ」
犯された娘はベッドの隅へと這い、スカートを降ろした。だが彼女には泣く暇すらなく、さらなる恐怖に両目を剥いたのだった。別の兵士が彼女の隣にいるさらに年若の娘に手をかけるのを見たからである。
「ウニエ[Unnie](お姉さん)!」 とその小さな娘が泣き声をあげた。
「その子を離して!」 と娘は金切り声を上げ、両手をこぶしにして男の背中を叩いた。「まだ14歳なのよ、このけだもの!」
男は手の甲で娘の顔を鋭く殴った。娘は身体を転がすようにして倒れた。「馬鹿な朝鮮女め」 と怒鳴りながら男はズボンを降ろした。そして前を向き、泣きじゃくる少女に「ウルサイ[Urusai!]」と怒鳴った。