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どうしてこれをやったんだろう。鏡で自分の姿を見るたび後悔する。すごく下品。何て言うか、僕自身はこんなのしたいと思っていなかったんだけど、ジェニーがあんまり勧めるものだから。ふたりで外出してた時だった。夏に湖畔の別荘に行って、そこからマイアミに戻ってきた最初の晩のこと。僕はちょっと酔っていたんだけど、ジェニーがタトゥを彫ってみたらって言ったんだ。僕は、最初は拒んだよ。そんなことするほど酔ってはいないって。ひとつで充分だよって……
いや、正確にいえば、この腕のタトゥはふたつ。ふたつが重なったもの。ちょっと前に…僕が体重を大きく減らした頃だったかに…すでに彫っていた棘のついたツタのデザインのタトゥを見て、ちょっと思っていたのと違うなと感じたんだ。そこでタトゥの店に行って、そこに花をいくつか彫ってもらった。今は、このタトゥがよくあるバカっぽいタトゥだったなんて誰にも分からない。すごくユニークになっている。
多分、決心するのに、あと数杯飲むだけで良かったんだろうと思う。それから程なくして、気がついたら別のタトゥの店に来て、うつ伏せになっていた。そして、このトランプ・スタンプ(
参考)を彫られていたわけ。どうして他のにしなかったのかって? 僕も分からない。まるでこれに引き寄せられたような感じ。あのタトゥの店に行く前から、どんなのを彫ってもらうか知っていたような…。
でも、そんなの全然意味が分からない。というか、これを彫って僕が楽しいなら、意味が分かるけど、僕はこんなのを彫らなきゃ良かったって思っているんだから。そうだったら、僕はこれを望んでいたはずがないということになるよね?
ジェニーはこれが好きだと言っている。確かにそうだろう……ジェニーは僕のことを「私の可愛い淫乱ちゃん」って呼んでいるから。ああ、確かに。それこそ、男が妻に呼んでほしい名前なんだろう。
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僕は頭がおかしくなっているんだと思う。もちろん、人はよくそう言うのは知ってるし、そういう時はほとんどいつも誇張して言ってるのは知っている。でも僕は本当に頭がおかしくなっていると本気で思っているんだ。昨日もまた出来事があった。でも、この時だけはジェニーが僕のそばにいなくて、僕には助けがなかった。僕だけ。ずっとひとりで。
僕が衣類を入れた箱を屋根裏に片づけている時だった。何か、頭の中でパチンと弾ける感じがした。そして僕がしてきたことのすべてに鮮明に気がついたんだ。自分がどんな人間になってきたか、そのすべてに。着る服とか、髪型とか、化粧とか…そうお化粧。それに身体も…そのすべてを認識したんだ。僕は叫びたかった。パニックになりたかった。でも…なぜか、僕は叫びもしなかったし、パニックにもならなかった。
まるで頭の中を覆っていた霧が晴れたような感覚だった。ようやくすべてが明瞭になったような。そして、思った…どうしてそう思ったかは分からないけど…つまり、もしパニックになったら、本当にすべてが大波のように戻ってきてしまうだろうと。だから、僕はじっと我慢して強いて平静さを保った。自分はどのような人生を選択したのかを検討するために。
いったん平静さを保とうと決めたら、後は簡単だった。このパニック状態は長く続くものじゃないと分かった。でも、ちょうどその時、あれに気づいたんだ……。
大きくはない。あえて言えば、手の中にかろうじて収まるくらい。でも、確かに存在している。トップを降ろして、躊躇いがちに乳房に触った。僕の乳房に…。男なら自分の胸をこういう言葉で表現はしないんだけど…。大きくはないけど、確かに乳房と呼べるものだった。女性の乳房。そして乳首を見て確信した。すごく…突出している。「突出」、まさにこれがそのとき頭に浮かんだ言葉だった。まさに突出と言うにふさわしい。だって、30センチも突き出ている感じだったから(もちろん、これは誇張だけど)。
すぐに、どうして最近の僕の気分にムラが生じてるのか理解した。どうして肌がどんどん柔らかくなってきているのか分かった。どうして、最後に勃起した時のことを思い出せなくなっているのか分かった。ジェニーが、ほぼ8か月前から僕にビタミン剤だと言って飲ませている薬は女性ホルモンなのだ。
そう悟った、その瞬間、パニックが襲ってきた。そして僕は何も気にしなくなった。まるで夢を見た後、その夢を急速に忘れてしまうような感じで、さっきの考えが消えていく。明日になったら、僕はこのことを何も覚えていないだろう。だから今ここに書き留めている。
頭がおかしくなっているのではないといいんだけど。ジェニーは僕にこんなことをしているなんて、そんなの間違いだといいんだけど。