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今日、ジェニーが僕にバイブを買ってくれた。そんなこと言って変に聞こえるのは知ってるけど、でも、まあ最近、僕とジェニーの関係は変な感じになってるから。僕が問題を抱えるようになって以来ずっと。問題と言うのは、分かると思うけど、下の方の……ああ、言ってしまおう、しばらく前からぜんぜん勃起できなくなってるんだ。このマヌケな日誌でこの話題にこだわるつもりはないよ。ともかく、そうなってからずっと、僕とジェニーは、いろいろ他の手段を創造的に考えなければいけなくなった。指とかそういうものを。僕のお尻に。
最初、試したいとすら思わなかった。というか、たいていの男なら、その一線は越えたくないものだろ? でも、ある夜、ジェニーが僕にフェラをしながら、指を僕のあそこにちょっと突っ込んだんだ。その瞬間から、僕は負けてしまった。どうして前に試してみなかったんだろう?
単なる肉体的な快感ばかりじゃなかった。確かにそれもあるけど、でも、それは全体のパズルのひとつの小さなピースにすぎない。自分の妻に指を挿されながら、何か特殊な感じが出てきて、いろんな意味で僕は興奮したんだ。実際、ちょっと勃起もしたんだよ(数か月ぶりの勃起)。
最初は指1本、次に2本。もっと実のあるモノが欲しくなるまであっという間だった。でも、そのことは言えなかった。どこか恐い点もあったし。でもジェニーには分かっていた様子。彼女は僕が欲しいと思う前から、僕が欲しくなるものを知っている。いつでも。
というわけで、今日、僕がスーパーから帰ってくると、これが置いてあった。何気ない感じで、コーヒーテーブルの上に。すごく大きくて、リアルな形をしている。それに僕の好きな色でもある。
「気に入った?」 とジェニーの言う声が聞こえた。僕はトランス状態みたいになって、それに近づきながら、ただ頷くことしかできなかった。腰を降ろして、これを手にとった。……僕の小さな手でもつと、いっそう大きく見えた。「キスしたら? その頭のところに」 とジェニーの声。
言われた通りにした。それから2分もしなかったかな。ふたりとも裸になって、これを試し始めたのは……
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今これを急いで書いている。というのも、これをいつまで記憶していられるのか分からないから。あの屋根裏の日、つまり僕が胸が大きくなってるのに気づいた日についてですら、あの日に書いたことを何度も何度も読み返している。そうしないと、すっかり忘れてしまうから。僕に何が起きてるのか分からないけど、僕はこの人物になるよう強いられているんだ。僕には抵抗できない。実際、そんなことはできない。それに現実的にも方法がない。でも、日を追うごとに、僕は意志の力が少しずつ強くなっているように思う。僕は僕だ。でも僕は僕ではない。この状態、理解するのがとても難しい。
そして、あの喧嘩。僕は寝室にいて、ベッド・メーキングをしていた。すごくキュートな可愛いトップを着て、他に何も着ない格好で(ジェニーはそれがとてもセクシーだと思ってるし!) あ、ダメ……また話しが逸れてる。とにかく、その時、玄関をノックする音が聞こえた。それにジェニーが迎えに出た音も。僕は立ち聞きするつもりはなかったけれど、階段を降りかけたところで、僕の名前を言うのが聞こえたんだ。
「ジェニー、これをアレックスにし続けるなんていけないよ」 ジェニーの同僚のグレーブズ博士の声だった。「彼は人間なんだよ。君のご主人なんだよ。それを無視して、君は彼を変えてしまった……彼の今の姿が何であれ、ああいうふうに変えてしまった」
「これは私の人生だわ」とジェニーが答えた。「それに私のプロジェクトなの。被験者を選ぶのは私よね。覚えているでしょう? 私がいなければ、あなたはこの仕事につくことすらできなかったわ。それを忘れないでちょうだい。加えて、私たちが政府と契約した時も、あなた、苦情を言ってなかったわよね? それに、そのおかげで何百万ドルも得たことについても文句を言っていないでしょ、あなたは」
「僕は……」
「自分がどれだけ偽善的になってるか、自分で見えてる? この実験があってこそ、私たちが百万長者になってるのよ。この実験があればこそ、さらに大富豪になれるのよ。突然、良心の呵責を感じたからって投げ出さないで」 ジェニーは金切り声を上げていた。「それに、付け加えれば、彼はいま幸せなの!」 かろうじてジェニーの声が聞こえた。「私も幸せなの。それのどこが悪いの? どうして私たちが幸せであることが、誰かを傷つけることになるのよ?」
「彼は実際は幸せじゃないよ。彼はもはやアレックスですらなくなってる」 グレーブズ博士の声。
そしてその後、玄関ドアをバタンと乱暴に閉じる音がした。その後に、小さく啜り泣く声も。