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暗示の力 (31-35) 

31
性的魅力はパワーだ。その魅力を自分に都合が良いように使う方法を知るだけでよい。女性は太古の昔からそれを知っている。僕はその人生の根本真理を学び始めたばかりだ。

施設内に入るまでは問題がなかった。あのIDカードのおかげで、何の問題もなく数々のドアが開いた。だが、施設に入ったところで捕まってしまった。作り話をでっち上げたが、相手の方が僕の顔を知っているようだった。

「私のことを知ってるの?」

彼は頷いた。「君は被験者だから」

「でも私の名前も知ってるの?」

彼は頭を振った。

「私はアレックス。彼らが私に何をしたか知ってるでしょ? あんたの名前は?」

「グレッグ。グレッグ・アンドリューズ。監視担当。だから、君がここに来たのを知っている。君が毎日何をして、どこに行ったか、我々はすべて監視している」

彼が言ってることの含意を深く考えてる余裕はなかった。そんなことで僕のミッションを軌道修正させるわけにはいかなかった。あまりに多くのことがこのミッションにかかっていたので、監視されていたことに怒ってる暇はなかった。要するに、彼らは僕を監視してる必要があったと言うこと。そうね? 僕は研究対象だったということ。僕は、僕は…彼は何と呼んだっけ? ああ、被験者。名前すらない。人格すらない。単なる、いじって遊ぶための実験室のラット。僕がジェニーの夫だと知ってる人は何人いるのだろう?

だが、そんなことはどうでもよかった。問題はワクチン。そういうわけで僕は唯一持っている武器を使った。

「あなた、私のことをずっと見てきたんでしょ? 何もかもすべて?」 と無邪気な声で訊いた。

彼はまた頷いた。

「私がオナニーしてるところも見たんでしょ? ねえ?」

彼のズボンの前が膨らむのが見えた。僕はシャツを脱いだ。今日はノーブラで来てる。

「これがあなたが見たいものなの?」

ズボンを脱いだ。

「人によって形とか大きさとか違うのよね? そうでしょ?」

パンティを脱いだ。

「私を見ながらオナニーすることある? いいのよ、オナニーしてても。男が私を欲しがってると思うと感じてくるから」

彼は私を見つめたままだった。

「ちょっと秘密を聞きたい?」

彼は頷いた。私は彼に近づき、彼の前に身体を傾けた。そして耳元に囁きかけた。

「あなたのズボンの中、大きなおちんちんがありそう。いま私が思ってること、何かと言うと、そのおちんちんをお口に入れること。それだけなの…」

そう言ってすぐに彼の前にひざまずき、僕の人生で2本目のペニスをしゃぶり始めた。これはアンリのとは違った味がした。違いはほんの少しだけだったけど。彼を逝かせるのに時間はかからなかったし、最後の一滴まで飲み込んであげた。最初にした時ほど、汚らしい感じはしなかった。

ことを終え、服を着ながら彼に言った。

「私が来たことはふたりの間だけのことにしましょうね。いい?」

彼は頷くだけだった。

「いい子」と、かれのお尻を軽く叩き、僕は部屋から出た。

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32
自分が何を期待していたのか分からない。ことの全貌が突然分かるとか、そういうことだったのか、あるいは本来の自分に、少なくとも気持ちの点で、奇跡的に戻るとか、そういうことだったのかもしれない。ワクチンを手に入れた後は、すぐにそこから出ていくべきだったと思う。でも、ジェニーは正確にどんなことを僕にしていたのか、それをどうしても知りたくて、その場を離れられなかった。

だから、運よく関連情報を見つけたときにはちょっと驚いたと思う。それは軍のために用意されたプレゼン資料だった(この会社は資金等を引き続き得るため軍を納得させる必要があったのだろう)。僕は素早くそれをメモリにコピーし、できるだけ早くその場から離れた……。

家に帰り、早速、ジェニーが僕に何をしていたにせよ、その詳細を調べる仕事に取り掛かった。

どうやら、マインド・コントロールは可能のようだ。だが普通に考えられてるようなやり方ではないらしい。テレパシーのように何か思考がビームのようになって脳に送りこまれるなどはあり得ない。それは馬鹿げている。この方法は、脳の暗示への順応性を加速することと、そのような暗示を適切に行うことの組み合わせのようだった。同じ暗示を充分な回数繰り返すと、その暗示を脳が自分で生み出した考えであると思い始めるということ。音楽と一緒に暗示をかけると、サブリミナルなメッセージが被験者にまったく気づかれるに済むらしい。

そこまでは理解できた。政府は(それにおそらく多くの民間人も)このようなテクノロジーのためなら人殺しもするだろうと理解した。

プレゼンテーションの中では僕のことはずっと「被験者」と呼ばれ続けていた。基本的に、(例えば髪を長くするとかの)小さな変化では充分ではないらしい。連中はもっと変化を求めた。その結果、大幅な減量が加えられた。だが、それでも充分じゃなかったのだろう。連中はもっと証拠が欲しかったのだ。そういうわけで、僕の女性化が開始された。ジェニーが、平均的な筋肉質の男性である僕を、僕に気づかれずに、女性化させることに成功したら、このプログラムは確実な成功を収めたものとみなされる。そういうことらしい。

それこそ、ジェニーがこの2年間してきたことだった。この資料を読む前から、ジェニーに責任があることは知っていた。でも、僕は、それは何か間違いで起きたことなのではと期待していた。計算して行った実験ではないと。僕は完全に間違っていた。ジェニーは、この2年間、ずっと、自分が正確に何を行ってるか、知っていたのだった。

それに資料によると、1年を過ぎた後は、効果は永続的になるらしい。1年以内なら、精神的変化を逆回転できる。だが、それを過ぎると、被験者(つまり僕)はずっと変化したままになる。

そういうことだ。僕は、良かれ悪しかれ死ぬまでこのままでいることになるのだ。

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33
ジェニーは僕が永遠にさよならすると知っていたように思う。僕はスーツケース1個しか持たなかったけれど、彼女には分かっていたはずだ。僕が300万ドル近くのお金を海外の銀行口座に振り込だのを知っていたはずだから。ジェニーほどの大富豪であっても、それだけのお金がなくなっていたら気がつくものだから。それに気づいていながら、何もしなかったのは、僕に対して行ったことに対する、彼女なりの謝罪だったのかもしれない。あるいは、単に僕に消え去ってほしいと思ったからかも。このお金で僕は解雇したと。

どっちにせよ、彼女はすべてを知っていたと思う。僕がいろいろ調べていたこととか、会社に侵入したこととか、僕が事実を知ったこととか。ジェニーは、もはや僕を操作することができないと知っていたが、それでも僕に留まってほしいと思っていた。そこまでは僕も理解できる。実際、いろんなことをされたけど、ジェニーが僕に留まってと頼んでくれたら、僕もそうしたかもしれない。彼女の口からすべてを明らかにしてくれて、どうしてあのようなことをしたのか、どうして夫である僕をテストの被験者として利用したのかを説明してくれたら、そうしたら僕も話しを聞いたかもしれない。そして、ひょっとすると、本当にひょっとするとだけど、彼女を許せたかもしれない。

でもジェニーはそういう人じゃない。彼女は自分が間違ったことを認めることができない人なんだ。…とても頑固な人。彼女が行ったありとあらゆることを目の前に突き出されても、彼女は、彼女によって人生を盗まれた男に対して謝ることすらできない。男? 僕はもはや男ではない。ずいぶん前から男ではなくなっている。

本当に不思議だ。この選択肢が与えられたとして、僕自身ではこの道を進むことを決して選ばなかっただろう。そもそも、身体的に可能だったとも思わない。……このような変化を自分自身に課すような意志の力なんか僕にはないから。誰もそんな力は持っていないと思う。でも、僕はこの数々の変化を強制されたにもかかわらず、僕は、今の姿になった僕を嫌ってはいない。これは不思議だ。

この変化、特に身体的変化をどうして受け入れているのか? それには根拠がないわけではない。もともと、僕は、背が低いせいで、自分の身体に不安を抱いていた。そのため、あれだけ筋肉を鍛えたのだった。筋肉は、僕の男性性を支えるための頼り綱になっていたのだった。ジェニーの影響がなければ、僕はこの事実すら認めなかっただろうと思う。あの頃のままで僕の人生を続けていただろうと思う。

いまの僕は幸せだ。そう思う。少なくとも、愛していた女性に裏切られたことを知ったばかりの人間で、僕ほど幸せであると思える人は他にいないだろう。裏切られたという状況については不快だけど、でも、今は、今の自分に満足している。あれだけ元の自分にしがみついていたにもかかわらず。僕は自分のことをどんな男と思っていたのか、それがどうであれ、その男は敗れ去ったのだ。その男性性にしがみついていた頃の僕は幸せではなかったのだ。

だから、今は、僕は今の自分に喜んでいると考えている。そう考えると裏切りにあった心の傷が少しだけ癒される。それでも、僕は去らなければならない。それ以外に道はないから。

あの、最後にジェニーを振り返った時の彼女の姿。ジェニーは泣いていた。あの時はつらかった。あの生活に別れを告げたところだった。これからどこに行くかも、何をするかも、考えていなかった。ただ、去らなければならない。それだけだった。あの時のジェニーの姿を思い出すと心が痛む。

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34
ふと、この日誌をつけること自体、ひょっとしてジェニーの計画の一部だったのではないかと思った。だがもう、それはどうでもいいのは知っている。ただ、この日誌をつけることが、あの恐ろしい実験から逃れるための助けになったのは事実だ。でも、もう僕には書き続けることができない。ジェニーの元を去ってから、もうすぐ1年になる。あれ以来、彼女とは一切連絡を断っている。もっとも、今でも彼女の影響が残ってる感じはある。ほぼ、毎日。でも、次第に良くなっている実感はある。行動における僕の選択は、ジェニーが僕に対して行ったことに影響を受けているのは知っているけど、それでも、僕の行動は僕自身が選択して行っていることだ。あの、変態じみた、めちゃくちゃな状況においても。

ともあれ、僕はフランスに落ち着いた。フランスのどこかは言わない。それに今は別の名前で暮らしてる。でも、このフランスこそが僕がいるべき場所じゃないかと思っている。フランス語の会話すら、どんどん上達している。これは考えてみると不思議なことだ。というのも、高校時代、僕はフランス語の授業で落第したのだから。

ここでは、誰も僕の過去を知らない。たいていの人は、僕のことを、こちらではよくいる、父親のお金で遊び暮らしてるアメリカ娘と思っているようだ。そう言われても僕は訂正しない。

でも、僕が一緒に寝る男たちは…そう、僕は男としか寝ない…その男たちにはいくらか説明しなければならない。脚の間にアレがついてるわけだから。なので、そういう時には、僕はずっと自分は女の子だと思ってきていて、そのような生き方を選んできたと伝えることにしている。たいていの男たちは、僕の脚の間にあるものなど、全然気にしない。彼らにはペニスを突っ込める穴があればいいのだ。それに、本当のことを言えば、僕も彼らがどう思おうと構わない。僕としては、あの「お互いのことを知りあう」時間をすっ飛ばして、欲しい物を得られれば、それでいい。

心の通った親密さ。それが僕にとっての問題のようだ。その問題点に気づくことができるほど、自己判断はできるようになっている。でも、なぜその問題があるのか、その理由も分かっているような気がする。僕が経験してきたこと、僕が一生寄り添うと決めた女性であるジェニーが僕にしたこと、それを考えれば、この問題があるのも当然ではないかと思う。

とにかく、これが僕の最後の書き込みだ。この日誌には今後一切、書き込まない。耐え忍んだ様々な嫌なことにもがき苦しむのはやめて、今から僕は、自分の人生を歩んでいくのだ。

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35
彼は、私の元を去った18ヶ月後、この日誌を送ってきた。私はこれを読み、そして何度も何度も読み返した。読み返すたびに、彼に経験させた様々なことを思い、何度も何度も悔やんだ。私は、何より、重視されたかったのだと思う。世界が私を認めてくれるような何かをしたかった。それだけだった。そういうわけで、あれを開始した。でも、その後は……その後は、私自身があの実験がもつパワーに飲み込まれてしまったのだ。私が彼にしてほしいと思うことを彼にさせる。その事実を楽しんでいる自分がいた。彼自身が何をしたいと思っても、どんな人間になりたいと思っても、彼には私が命じた人間にならざるを得ない。

思うに、私には、何か深く根付いたレズビアン妄想を持っていたのかもしれない。それに導かれて、彼をどう変えるかについて、私はあのような選択をしたのだろう。あるいは、私は、性的にも精神的にも感情面でも誰かを最終的に支配できるようになるという考えが気に入っていたのかもしれない。これを始める前は、私は本当の権力と呼べそうなものを経験したことが一度もなかった。何かを仕切るということが一度もなかった。自分自身で何かを決定するということが一度もなかった。私がすると決めたことは、他の誰かが求めたことへの対応であるのが常だった。だから、ようやく権力をふるうチャンスが巡ってきた時、私はそれに飛びついてしまった……。そして、その権力が逆に私を飲み込んでしまったのだった。

彼を探し出し、私のしたことの謝罪をし、私を元に戻してと彼にお願いする。そうしたい衝動に毎日のように駆られ、毎日のようにそれをこらえている。でも、そんなことは起こりはしない。私はいろんなことを決めた。そして、最後に、彼もひとつだけ決めた。私が彼が決めるのを止めなかった、最後の選択。私は彼が別れることに決めるのを止めなかった。

彼が何をしていたか、私は知っていた。彼がそれをしてるところを見つけたら、私は彼にやめさせただろう。でも、もし、知らないふりをしていたら…。もし、彼が嗅ぎまわっていたことや、フェラをして情報やキーカードを手に入れたことなどすべてが私のレーダーに入っていないふりをしていたら、ひょっとすると、彼はその機会をとらえて、自分で自由の身になるかもしれない。ひょっとして、彼は私も自由にしてくれるかもしれない。彼をコントロールしたいという気持ちから自由にしてくれるかも。そして、彼は実際、そうしてくれた。

それにしても、奇妙なことがある。日誌を読むと、彼のセクシュアリティが完全に変わったのは明らかだ。性的に男性に惹かれること。彼は、私が彼の心にその気持ちを植え付けたのだとみなしている。でも、これは違う。どうして私がそんなことをするだろう? 私は、私のための彼を求めていたのだから。彼を他の男と共有することなど求めていなかったのだから。私にだけ献身的になってくれるようにしたかったのだから。

あの時…あの、彼が「ヤッテ」とか「ちょうだい」とか叫んでるのを見たあの時、「味わいたい」と言ったあの時、ひょっとしてそうなっているのかもしれないと思った。でも、その時は、私はこれは一時的な変調であると考えた。混乱して深い意味のない妄想をしてるにすぎないと。だけど、あれははるかにそれを超えるものだったのだ。あの時点で、彼のセクシュアリティは不可逆的に変化したのだ。あの後も私とするときがあったけれど、あれはただの行為。彼が本当に求めていたものの代償行動だったのだ。

でも、何が原因で? 深く根付いた欲望が原因? あるいは、彼に起きていたことに対する、心の単なる反応? 頭の中、好奇心が渦巻く。でも、それを解明しようとすると、同じ道をたどることになるのが怖い。同じ間違いを繰り返すことになってしまう。でも、本当に知りたい。

それに、あの、人をコントロールする力も懐かしい……

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[2013/12/24] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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