「いじめっ子」 The Bully by Nikki J.
ジョージは地べたに倒れた。レオに押されたからだ。ジョージはレオを見上げた。レオは身体が大きいわけではない。もっと言えば、身長160センチで体重も60キロだから、小さい方とも言える。だが身体の大きさは実際は関係ない。ジョージは弱虫ウインプなのである。ほとんど誰とであっても、肉体的に喧嘩をするとなったら、必ず哀れなジョージがしこたま殴られる結果になる。
「見ろよ、このホモオンナ男をよ!」 レオが嘲った。周りにはジョージの辱めを見に他の生徒たちが集まっていた。「そろそろ泣きだすぞ?」 誰もが大笑いした。
ジョージは泣くのは嫌だったが、でも泣き出しそうになる。どうしてもこらえられない。ジョージは向こうから先生が来るのを見てほっとした。ハーディソン先生だ。「けんか」を止めにこっちに来る。レオや他の生徒はいっせいに散らばった。
ハーディソン先生は手を伸ばし、ジョージはその手を握った。
「ジョージ、君は自分で自分を守るようになれなきゃダメだぞ」
「分かってます、先生」
そうは答えたけど、ジョージには分かっていた。あと2週間ほどでこの高校から卒業する。その時までいじめは続くだろうと。
ジョージは背が高かったが、痩せてひょろひょろしていた。小さいころからいじめの対象となってきた。高校になる頃には、いじめにすっかり慣れていた。他の子供たちは彼に悪口やホモだと呼んで煽り、いじめた。実際、その点について言うと、彼はバイセクシュアルではあるのだが、そのことが重要ではないのである。どんな女の子も彼に話しかけなかったし、ましてやセックスするなど問題外だった。
その出来事のあとは、ジョージにとって幸いなことに、他の生徒は近づく卒業式の方が関心事になり、概して、ジョージを放っておくようになった。2週間が過ぎ、ジョージは卒業した。
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夏の間、ジョージは家でビデオゲームばかりをして過ごしたが、その夏が終わり、彼は大学に進んだ。ジョージは期待に胸を膨らませていた。彼の専攻は生化学専攻。最初の数日は楽しく過ごした。実際、これから友だちになれるかもしれないと思える人たちとも出会えた。
だが、それも突然瓦解する。キャンパスをぶらぶら歩くレオの姿を見たからだ。ジョージは隠れようとしたが無駄だった。レオに見つかったからである。
その後の流れは、ジョージが予想したようになった。レオはジョージを嘲弄し、まだホモなのかとからかったりである。それに対してジョージは反論すらしなかった。学生たちの多くがそれを見ていた。
その日から後、大学も高校と大差なくなった。ジョージと話しをする学生はほとんどいなくなったし、ましてや彼を友人と思う者は皆無になった。ただひとつだけ明るいことがあり、それは彼が学業で優れていたことだった。そして、たった3年で生化学の学士号を取り卒業。その1年後、修士号を取り、さらにその1年後、博士号を取ったのである。
学生同士の付き合いがほとんどなかったことで時間が十分あり、自分の選んだ分野を探求する機会に恵まれたおかげだろうとジョージは思った。
大学院を出てたった2年が過ぎたころ、彼はほとんどの癌のタイプに効く薬品を開発し、その特許を売却した。その売却により大金を得るとともに、会社の株も与えられた。結果、数百万ドルにもなった。
大成功を収めたお祝いに、ジョージは2ヶ月ほど遊んで過ごした。大金を高価なものを買ったり、美しい女性たちとセックスをするのに使ったり、社交を学んだりである。ひとしきり遊ぶと、やがてジョージはそれに飽きてしまった。別の病気を治す薬の開発に精魂を傾けることも考えたが、たぶん壁にぶち当たるだろうと思った。いや違う。もっと自分のために何かをやりたい。
彼が自分の希望を悟るまで、じっくり考える時間は2週間しかかからなかった。復讐したいと思ったのである。あのレオを懲らしめたい。だが、単に身体的苦痛を与えるのは望まない。
ジョージはある復讐計画を思いついた。その計画は社会実験にもなるものだった(科学者としての彼の頭脳が、そういう部分を入れることを拒めなかったのである)。
早速ジョージは彼がもっとも得意とすることに取り掛かった。すなわち薬を作ることである。復讐を現実にするための化学合成物。
その薬剤を現実に作ってみると、実に簡単にできた。たった数週間で合成を終えたのである。遺伝学や生化学の新しい分野を調査しなければいけなかったが、彼にはしっかりしたモチベーションがあった。
この薬は作成と同様、効果も単純だった。これを取るとレオの身体にいくつかの変化をもたらす。第1に、レオのアヌスと乳首が性感帯になる(乳首自体も少し大きくなるし、興奮すると勃起するようになる)。アヌスは特に敏感になる(もっと言えば、ペニスのもたらす快感を上回るようになる)。第2に、レオの体形も少し変化する。腰回りが少し大きくなり、ウエストは細くなる。また尻も丸みを帯びるようになる。加えて、声質も少し高音になる。肌も柔らかくなり、体毛の大半がなくなるだろう。顔も丸みを帯びる。第3として、ジョージは、ある種のフェロモンに関して、その分泌とそれへの反応も調節した。男性のフェロモンより女性のフェロモンに似たものになる。
この変化は段階を追って生じる。月単位で少しずつ発生してくる。
ジョージは会社の特殊業務部員を雇い、レオの家に忍び込ませた。そしてこの薬物を仕込み、一連の小さなハイテクカメラとマイクをしかけた。ジョージはこの労作の結果がどうなるか、目と耳で確かめたかったからである。
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レオは驚いて目を覚ました。実に変な夢だった……。正確には思い出せないが…。彼は目をこすり、身体を起こし、投げるようにしてブランケットを剥いだ。ベッドから出て、仕事に行く準備を始める。シャワーを浴び、髭を剃り始めた。でも、途中でやめた。髭剃りの必要がないと気づいたからである。そもそも彼は髭剃りが嫌いだった。
職場につく。彼は投資会社の低レベルのアナリストである。秘書に挨拶もせず、オフィスに入り、デスクについた。彼は勤務時間の大半をインターネットをして過ごす。YouTubeで面白い動画を見たりである。概略的に言って、仕事らしい仕事は何もしない。これがレオにとっての典型的な一日である。
勤務時間が終わると、バーに飲みに出かけ、その後、酔ったまま車で家に帰った。幸い、事故には会わなかった。そして家に入り、カウチにごろりとなってそのまま意識を失った。
翌朝、レオは酷く体調が悪かった。吐き気が止まらず、やむなく職場に欠勤の電話を入れた。次の日になっても良くならなかったら医者に行こうと思った。
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幸い、次の日は気分が爽快だった。もっと言えば、これほど爽快な気分になのは、ずいぶん久しぶりのことだった。元気に跳ねまわるようにしてシャワーに入った。そして、身体を洗いながら、アヌスの開口部を擦った時だった。なんか違う感じがする。嫌な感じではない。いつもと違う、前より敏感になっている感じだ。
レオは肩をすくめ、シャワーを終えた。職場での一日はほとんど何もなく過ぎた。ただ、乳首が疼き続けてた。多分、発疹か何かだろうとレオは思った。そして、その日もネットを見て勤務時間を過ごしたのだった。