ノボルは怒りを堪えることができなくなり、ゲンゾーを見た。「イクゾ[Ikkuzo]」
ゲンゾーは頷き、刀を抜いて隣の部屋の窓から音も立てずに忍び込んだ。彼の忍術の能力は、ノボルと出会ったときと少しも変わらず、鋭い。肉を切り裂く音、そして驚きの声と苦しそうな小さな悲鳴、そしてその後に床にどさりと倒れる身体の音がした。ノボルが部屋に入ると、ゲンゾーは刀から血を拭っているところだった。床には兵士たちの頭が転がっており、それぞれ首を失った自分の身体を見ていた。娘たちは部屋の奥の隅にたがいに寄り添い固まっていた。震えながらノボルが近づくのを見ている。
「コエン・チャン・ター[Koen chan ttah](大丈夫だよ)」 とノボルは優しく声をかけた。娘たちは驚いて彼を見つめた。
「私たちの言葉を知ってるの?」 娘たちの中の年上と思われる娘が訊いた。
「ああ。私たちと来た方がいいね。安全な場所に連れて行ってあげるから」 とノボルは、危害を加える意図はまったくないと示すように、両手を上げてみせた。「約束する。絶対に君たちには害を加えないから」
娘たちは黙って頷き、ノボルたちの後をついて、薄汚れた部屋を出た。
ゲンゾーは落ち着かなそうに振り返り、ただひとり部屋に残っている女の子を見た。強姦され、その跡も残ったままぐったりと横たわっている。その娘のところに行き、見降ろすと、娘は頭を振って、抵抗するような気配を見せた。ゲンゾーは、馬鹿なことをしないようにと顔の表情でメッセージを送り、両腕で娘を抱え上げ、ノボルたちがいるところへと彼女を運んだ。そして、ノボルが他の部下たちに出来事を説明している間、彼女を畳みの上にぶっきらぼうではあるが、優しく、寝かせた。その娘の妹が彼女にしがみついた。まだ震えが止まらないらしい。
「クニオ、誰か信頼できる人を探してくれ。この娘たちを韓国に送り返してもらうのだ。必要とあらば、日本人の娘のような服を着せてもいい。金が必要だったら私がいくらでも出す」
「はっ!」 クニオは早速、手配をしに去った。
振り向くと、ゲンゾーが姉妹たちを心配そうに見まもっていた。それを見てノボルは腕を組み、あのジウンが喉を掻き切って自害した時を思い出した。「少なくとも、この娘は生きている…。この子たちは明日の夜に連れて行こう」
その日の真夜中、ノボルたちは悲鳴を聞いて目を覚ました。悲鳴に続いて、絶望した泣き声が聞こえた。部屋へと駆けると、あの強姦された娘が首を吊っていた。寝台の掛け布を使ったのだった。幼い妹が彼女の脚を抱きながら啜り泣いていた。「ウニエ! [Unnie](お姉さん)」
「なんてことを!」 ノボルは叫んだ。
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