アンジーは私が口元に笑みを浮かべているのを不思議そうな顔で見た。そして、私の肩越しに視線を向け、スーザンとジェフがいるのに気づいた。彼女、心臓発作を起こすんじゃないかしらと思った。私の元に駆け寄ってきて、腕を掴み、横の方に私を引っぱって行き、顔を私に近づけた。
「あなた、気でも狂ったの? 自分で何をしてるのか分かってるの?」 と小さな声で言う。
私は肩をすくめ、満足げに微笑んだ。
「損失評価よ。彼らがとても優れた役者なのか、私が誰か分からないでいるかのどちらか」
アンジーの顔が真ん前に来ていた。私に心のこもったキスをしてくれそう。でも彼女は急にとまり、私の息の匂いを嗅いだ。シャンパンは完全に匂いを消さなかったのだろう。アンジーは目を丸くして、信じられないとばかりに頭を振った。
「あなたには自殺願望があると分かったわ」 と呟き、そして顔を上げて私を見た。悲しそうな笑みを浮かべている。「お口を洗う時間ね。これからあなたと何をしたらいいの?」
「何でもお好きなことを…」と彼女の耳元で囁いた。「でも、もうちょっと後まで待つべきかも…この社交の集まりが終わるまで。ここの人たちおしゃべりが大好きなのは分かるでしょう? ところで、私にこんな危険な生き方をする道を選ばせたのが誰か、忘れないようにしましょうね」
その晩、スーザンは私を見ていた。私も視界の隅にいつも彼女の姿を捉えていた。彼女は、向こうから恐い眼で私を睨みつけていた。私がまざっていたグループのひとりが横にずれた時、スーザンは私の身体にロブの腕に抱かれる私の姿を見た。その瞬間、スーザンは目を飛び出さんばかりの顔になった。その後、彼女はグループの様々な人と会話を再開したが、何度も私の方にチラチラ視線を向けていた。それを見た男性が何人か、笑顔で何かスーザンに言い、それを聞いて、彼女は顔を赤らめた。私の推測では、私とアンジーがレズ・カップルとしてポルノ作品の出演者として選ばれたとか、かな? そのすぐ後に、スーザンはジェフの腕を引っ張るようにしてパーティ会場から出て行った。
その日の夜、アンジーと私は、ロブのマンションに行き、私たちを崇拝するふたりの男性のためだけの出演作でスター女優を演じた。セックスは、ダイアナとだけしていた頃も良かったけど、今はもっと良くなっている。ここも、私の態度が大きく変わったところ。私は、もはや、狭い精神空間でひとり膝を抱えて隠れることはなくなった。
ジェフが私に何かをするとして、その時間と場所について知ることができた。すべてを知るまでには至っていないけれど、とうとう、その全体の姿が見えてきたところだ。もっと言えば、ようやく、私が優位に立てる場所が見えてきたと言ってよい。
ジェフとスーザンに偶然鉢合わせした時のアンジーの反応。あれも、パズル全体にとって大きなピースだった。アンジーについてはずっと安心できるようになっている。片や……
サム・スペード(
参考)方式はダメ。シャーロック・ホームズ方式で行きなさい。
あり得ない人たちを排除していったら、たとえ誰が残っても、それがいかに考えられなくても、それが真実。
その考えは、全然、好きになれないものだったけれど。
つづく