ダイアナが私の耳元に囁きかけた。
「あなたとアンジーのこと、訊いたら話してくれる?」
私は前を見つめたままでいた。そして、あてずっぽうで言ってみた。
「君とジェフ・スペンサーとのこと、話してくれる?」
私の後ろでダイアナの身体が一瞬、強張るのを感じた。
「そう訊かれるのも当然ね……でも、話す前に、答えてほしいことがあるわ。私のこと、愛してる?」
「もちろん。無条件に」
「私のことを信じる?」
ダイアナがこういう言い方を使ったのを知って嬉しかった。私だけの感覚かもしれないけれど、「信じる」と「信頼する」の間には繊細な違いがある。この時は、どちらの言葉を使うかで私は違った答えをしただろうと思う。多分、ダイアナはそれを察して、言葉を選んだのだろう。
「信じるわ」
「だったら、これも信じて」 と彼女は感情がこもった声で言った。「私たちが一緒になった3ヶ月間で、あなたは私の人生になったわ。私にとって生きて行く理由に。そういうこと、これまで誰にも言ったことがない。自分がこういうこと言うだろうとも思ってなかった。私のようなライフスタイルを送ってると、深い感情的なしがらみには関わることができないもの。あなたと知り合えて幸運だった。本当に幸運だった…」
「…最初の頃にあなたに言ったこと、覚えている? あのレストランで? 『1週間だろうと、1ヵ月だろうと、一生だろうと、違いはないわ。正しいと思ったときは、正しいのよ。あなたも分かってるはず』って。私たちは正しいことをした。私たちはふたりでひとりなの。あの最初の時、クラブで会ったときは、それに気づかなかったけど、あの素敵なバレンタイン・デーの週末からは、ずっとそう思っているわ。毎日、あなたを引き合わせてくれたことで神様に感謝しているの…」
「もっともっと君を知りたいよ」と私は小さな声だけど、しっかり伝えた。「始まりは、素晴らしかった。君とふたりだけの世界で、他の一切のこと、誰でも他の人のことを忘れて浸ることができた。そして、次第に事態がだんだん…だんだん複雑になってきた。手術の後、君は私のそばにいてくれて、とても嬉しかった。そして今は、私はだんだん……何と言うか、だんだん君と同じようになってきていて、そしてそれは私自身が望んでいたことでもあって、そんなことから、私たちは徐々に別々の道へとさまよい始めたような気がしてる。あまり君と会うこともなくなってきていたし。そして、そんな時、君はロスアンジェルスへ行ってしまった…」
ダイアナは私の首の後ろに優しくキスをした。
「それは、私があなたから離れていようとしていたから…。あなたを愛さなくなったというのじゃないのよ。実際は、その逆なのよ」
「それじゃ、分からないよ、ダイアナ」と私は不満そうな声を出した。「ジェフ・スペンサーとの関係のせいじゃないの? ついでに言えば、私は、彼が私よりずっと大きいのを知ってるわ。だから、彼と寝る方がずっといいんでしょ…?」
ダイアナは私の肩を掴んで、私に彼女の方を向かせた。そして怒った声で言った。
「さっき私が何て言ったか忘れたの?」