突然、ドアを蹴り破られる音がし、アンジェラはビックリして頭を上げた。ちょうつがいが飛び、ドアの先からゲンゾーが中に飛び込んできた。困惑した顔をしていた。ゲンゾーはベッドの方に顔を上げ、ノボルがアンジェラにぐったりと覆いかぶさったまま、息を切らしてるのを見た。アンジェラは、ノボルの毛に覆われた身体の下から、恥ずかしそうにニヤニヤしてるだけだった。ゲンゾーは迷惑そうに眉を曇らせ、壊れたドアを持ち上げ、元に戻そうとしたが、うまくいかない様子だった。
「エレベータのところでお待ちしてます」 とゲンゾーはアンジェラの方を見向きもせず、伝えた。
アンジェラは、ぐったりしたノボルの身体の下から這い出ようともがいたが、彼の重い体重で身体を押さえつけられ、なかなか逃れることができない。
「もう降りてよ」
「あなたには、そう言うのは容易いだろうけど…」 とノボルは心の機能のコントロールを取り戻そうとしつつ苦しそうな息づかいで答えた。「あなたが私にした拷問へのお仕置きとして、しばらくこのままでいようと思っているところなんだが…」
アンジェラは苦笑いして、ノボルの脇の下をくすぐった。ノボルは驚いてビクッと身体を動かした。それを見てアンジェラは楽しそうに笑った。
「脅かしも、ここまでね」 とローブを手繰り寄せ、乱れた髪を直し、ノボルが元の人間の姿に戻るのを見た。「もう、恐くなんかないわ、ノボル君」
「本気で脅かそうとしたわけではないのは明らかだけど」 とノボルは顔をしかめた。
これまでにないスピードでシャワーを浴び、着替えを済ませ、アンジェラは、アパートを出ながらシャツのボタンを締めた。
「また後でおしゃべりの続きをしに戻るわね」 と言い、ひょっとしてノボルがまた良からぬことを考えてるかもしれないと、きつい目つきで睨みつけてみせた。
「ワカッタ、ワカッタ[Wakkatta, wakkatta]」 とノボルは諦めた風情で呟いた。
アンジェラのスティレット・ヒールがタイル張りの床を叩く足音を聞き、ゲンゾーは振り向き、エレベータの下行きボタンを押した。
「さっきあなたがあそこで見たことについては、ごめんなさいね」 とアンジェラはニヤリと笑い、コンパクトを取りだした。
ゲンゾーは、アンジェラが鼻先にパウダーを塗り、鏡に向かってしかめつらをするのを横目で見た。
「私には関係のないことです」
「あなたがドアを蹴り破ったところ、格好良かったわよ」と、コンパクトをバッグにしまいながら浮かれた調子でアンジェラは言った。「私にも、ああいうことができたら…」 と羨ましそうに続ける。
「それには、それなりの靴を履かないと……」 とゲンゾーは言いかけたが、突然、アンジェラが大笑いし始め、不意を突かれた。「何がそんなに面白いのですか?」
アンジェラはちょっとゲンゾーの顔を見て、さらに大きな声で笑い始めた。
「ええっ? 真面目に言ってたの? なおさら可笑しい。冗談を言ってるものと思ってたわ」
やがて彼女の笑い声はくすくす笑いに変わり、最後にアンジェラは深呼吸して、自分を落ち着かせた。
「さて、ドーナッツを作る時が来たわね」 と明るい声で言った。
「なぜ、ドーナッツを作らなければならないのですか?」 とゲンゾーは一緒にエレベータから降りながら、不思議そうな顔で尋ねた。
「何でもないわ、ゲンゾー」
その頃、ノボルは強烈なオーガズムにぐったりとしていた。何かが頭に触れるのを感じ、顔を向けると、インが彼の横、小さなボールのような格好で寝ていた。頭をノボルの頭に押しつけ、ゴロゴロと喉を鳴らしている。その音を聞きながら、ノボルはまた眠りに落ちたのだった。
_______________________________