その翌日、トニーはメールを受けた。そのメールには息子が裸になってポーズを取っている画像が添付されていた。息子は、まるで『プレイボーイ』誌に載せられていると思っているようなポーズを取っていた。
「連中はお前に何をさせてるんだ?」 とトニーは独りごとを言った。
彼はこの写真のことを警察に言うべきかどうか迷った。みっともない写真を見せる恥ずかしさと、何か好転材料になるかもしれないという可能性を秤にかけた。結局、自由になった息子に会いたいという気持ちが勝ち、トニーは捜査官に電話をした。捜査官は、その1時間後に現れた。別の警官と技術者も連れてきた。技術者は、インターネット上の人の動きを辿る作業を専門としていた。
「遠いところからですね。ですが、オンラインで足取りを捉えるのはそれほど難しくはありません。とはいえ、あらゆることを試してみるべきです。そのメールを見せてくれますか?」 と捜査官は言った。
捜査官はいかがわしい写真を見ても顔色ひとつ変えなかった。それを見てトニーはありがたいと思った。だが、技術者の方は写真を見て、わずかに苦笑いしいてた。
トニーは心のなか苦虫を噛み潰し、唸ったが、それでも口は閉じたままでいた。この人たちが本当に息子を見つける手助けができるのならば、この程度のことなら我慢できる、と。
*
翌日、フィリップは寒さを感じ、目を覚ました。その寒気が、体毛がすべて抜け落ちてるせいだと気づくのに、そう時間はかからなかった。前夜、うなされつつ眠ったベッドに驚くほどの体毛が抜け落ちていたのである。彼は起き上がり、小部屋の中、歩き回った。いったい、これからどんなことが自分の身に起こるのだろう?
その日も、また写真撮影が行われた。写真を撮られた後、部屋に戻ると、抜け毛がすべて片づけられていた。少なくとも、その手際の良さには感心した。
その日、フィリップは、自分の状況について考えながら、部屋の中を歩き回ったり、部屋の隅に座ったりして過ごした。ここから脱出するのは問題外だと思った。それに、ベル博士は自分が始めたことを最後まで完遂するつもりであるとも思った。こんなことを単に思いつきで始めることなど普通はない。ともかく、ベル博士が言ったことを信ずるべきだと思った。ここから生きて出られるチャンスは、それしかなかった。ベル博士が何を要求しようとも、それに従うのだ。そうしてるうちにチャンスが生まれるはずだ。フィリップは、ベル博士に従うことによってどんなことが起きるだろうと考えながら、その夜、眠りに落ちた。
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オマールが言った。
「いや。フィリップは教えられる必要がある。何もしなくても自然に変わるということはないんだ。特に、こういう隔離された場所では、なおさらだ。通常、変身が起きるには、女性を観察し、その真似をするようになることが必要だ。彼らの脳の無意識の部分で行われるんだよ。彼らは、女性を手本にし、女性のような感情を持つようになる。女性と同じ衝動をもつようになる。女性が男性を求めるように、彼らも男を欲するようになる。女性のように振舞いたくなるんだ…」
「…だが、もしフィリップが女性に会うことができないと、彼の振舞いはさほど変わらないことになる。記憶してる女性の姿を元に何かをするかもしれないが、どのように振舞うべきかについて常時、強化される必要があるんだ。そういうわけで、彼を教え込む必要があるんだよ」
オマールはそう説明したが、マイクは依然として納得していなかった。オマールは女性を何人か雇って、あの若者に、どう振舞って、どう動くべきか教えさせたがっている。だが、人員が増えれば費用も増えることになるし、自分たちが捕まる可能性も増えることになるだろう。マイクは逮捕されることだけは避けたかった。
「女性はふたりだ。3人はダメだ。それに決して俺に会わせないように」 マイクは妥協案を出した。
「よかろう。女性ふたりで何とかできる。だが、その女性は美人である必要がある。さもないと、あの若者が興奮しなくても、あまり意味がないからな」 とオマールは言った。
「前に同じようなことをしたことがあるのか?」 とマイクが訊いた。
「ああ、ある」 とオマールは答えた。
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最初のメールが来てから二日後、別の画像がトニーのメールに届いた。彼の息子は同じようなポーズを取っていたが、どこか前と違った点があった。トニーは何秒かじっくり画像を見つめ、そして理解した。彼の息子は首から下が完全に無毛状態になっていたのだった。
この時までには、すでに恥ずかしさの感情は枯れ果てていた。彼は画面のウインドウを閉じ、パソコンから離れた。
それからさらに二日後、別の画像が届いた。この時は、彼の息子は前より小さくなったように見えた。最初はそれほど目立たなかったが、以前の画像と並べてみると、フィリップが3センチほど小さくなり、筋肉も失われていると判断できた。
その1週間後、トニーはまたメールを受信した。この時は、フィリップの身長が低くなったのはかなりはっきりと分かった。トニーは、犯人たちが画像処理を行って、フィリップを小さく見せているのだと思ったが、心のどこかで、連中は本当に息子の身体を変えているのかもしれないという気がしていた。
その8日後、またメールが来た。トニーは恐怖感を抱きながらメールを開いた。添付されていた画像は、トニーが予想したよりもはるかに驚きに満ちたものだった。彼の息子はさらに何センチか身長が低くなっていた(合計15センチになるだろうとトニーは推定した)。それにかなり体重も落ちている。多分、今は、65キロもないだろう。
それから2週間、時が過ぎ、その後、また新しい画像が届いた。これには動画も添付されていた。トニーはまずは写真から見た。フィリップは完全に小さくなっていた。多く見積もっても、体重50キロ、身長165センチ程度だろう。だが、それよりも悪いことは、彼の身体の線が完全に変わっていたことだった。以前は引き締まっていたヒップが、今は大きく膨らんでいる。ウエストは細く、以前の固い筋肉のお尻が今は丸く膨らみ、まるで18歳のチアリーダーのお尻のように変わっていた。腹部までも変わっていて、緩やかな曲線をともなっている。
トニーは、できるだけ見たくなかったのだが、どうしても息子の陰部の変化に目を向けざるをえなかった。陰茎は明らかに小さくなっていた。今は5センチもないだろう。それに睾丸もどこにあるのか分からない。それに加えて、息子の乳首だ。乳輪は直径2センチ半ほどに広がり、乳首自体も1センチ弱ほどの高さになっていた。
トニーは、気乗りしない様子で動画を再生した。動画では、息子が全裸で立っていた。そして、カメラに向かって声をかけた。
「お父さん、僕は大丈夫だよ」
フィリップの声までも変わっていた! ちょっと声が低い女性が話しているような声だった。
「ここの人たちは僕をそれなりに大事にしてくれてると思う。それに、僕はもうすぐ家に戻れるとも言っている。これまでのところ、嘘をつかれたことはないので、あの人たちは本当に僕を解放するつもりでいると思うよ。以上」
そこで動画は終わった。