「ノボル殿、電話が来ております」 とゲンゾウはお辞儀をし、部屋を出た。
ノボルは、それまで熱心に読んでいた新聞を置き、期待しながら電話に手を伸ばした。広島と長崎に原子爆弾が投下された後、彼に忠実だった侍や忍びの者の多くから、報告の声が途絶えていた。ノボルは、付き従う者たちに放射能がどのような影響を与えるかが分からず、彼らのその後についての知らせに飢えていたのである。
「モシモシ[Moshi moshi]?」
「ヒサシブリダナ[Sashiburi-dana]…」
ノボルは衝撃に打たれ、危うく受話器を落としそうになった。
「兄サン…[Ni-san]」 と電話の向こうの声。
ノボルは受話器をギリギリと握った。プラスチックを握る音を聞き、ゲンゾウがドアから入ってきた。
「マサカ[Masakka]……サ…」
「そうだよ、兄サン。あなたの最愛の弟、サブローだよ」 電話の向こうで、ひきつった笑い声がした。
「あ、あり得ない!」
ノボルは喉を絞ったような声で言った。自分の喉から血が出、それに咽るのを聞いた。どうして、サブローが生きてるなどあり得るのか?
「挨拶の言葉もないのですか? またお兄さんには失望させられましたよ。ほぼ4世紀ぶりだというのに、『やあ、久しぶり。お前の声を聞けて嬉しいよ』の一言もないのですか?」
ノボルは電話の向こうの嫌味な笑い顔が見える気がした。
「どうやら、私に会えなくて寂しかったかどうか、聞く必要もない様子ですね」
「どうやって、この番号を知った?」
「おやおや、そんなこと、全然大切なことではないでしょう? 大事なのは、長い年月を経て、私が、ようやくお兄さんの居所を掴めたということですよ」
「何が望みだ?」
電話の向こう、一瞬、沈黙が続いた。
「私の望みは何だと思いますか、兄サン?」
「俺の知ったことか」
「バカめ[Bakkame]」
その一言で、電話は切れた。
「サブロー? サブロー! モシモシ[Moshi moshi]?」
ノボルは今だ信じられない面持ちで受話器を戻し、椅子にもたれ、明晰に思考しようとした。
「ノボル殿、ドウシマシタ[doshta?]?」
ゲンゾウは何か良からぬことが起きたと知りつつ、何もせず座っていることができなくなり、許可を得ずオフィスに入った。
「2番から5番を今すぐ呼べ。問いたいことがある」 とノボルは命じた。
「はっ![Huh]」
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