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フィリップにとって、この2ヶ月は不思議の連続だった。自分が変身していることは分かっていたが、その変身の全体像は理解できずにいた。ペニスが縮小してるのは簡単に見てとれるのは確かだし、背も低くなり、体重も落ちてるのは分かる(彼はいまはベル博士を見上げるようになっていた)。だが、自分の変化を実際に目で確かめる必要がない時は、自分が大きく変化したことを心の中で簡単に否認することができる。
しかし、それも、ある日、変わった。フィリップは別の部屋に移されたのである。その部屋に入った時、フィリップはハッと息を飲んだ。そこは、まさしく10代の女の子の部屋のような装飾が施された部屋だった。ベッドと壁は薄黄色の色で統一され、壁にはアイドル・バンドのポスターが貼られていて、部屋の隅には大きな鏡がついたドレッサーが置いてあった。
その鏡を見て、フィリップはどうしても自分の姿をまじまじと見つめざるをえなかった。ああ、こんなに変わってしまっていたのか?
身体の変化に加えて、彼の茶色の髪は、いまは肩まで伸びていたし、顔つきも、依然として前の面影はあるものの、すっかり女性的になっていて、フィリップの妹とか従妹と言っても通りそうな感じになっていた。
「そこでシャワーを浴びてもいいぞ」 とクラレンスが、部屋の奥のドアを指差した。「それに、ドレッサには服も入ってる」
クラレンスはそう言い、ドアを出て行った。彼が外からカギをかける音が聞こえた。
フィリップは躊躇せず、バスルームへと向かった。もう何週間も身体を洗うのを夢見てきたのだから。バスルームは質素なものだった。(淡いピンク色のボトルの)液体せっけんと、ふわふわのピンク色のタオル、それにスポンジしか置いてなかった。
フィリップは肩をすくめ、シャワーをの蛇口を開けた。いきなり身体に冷たい水が振りかかり、彼はきゃーっと女の子のような悲鳴をあげ、急いで温度調節を行った。間もなく、水がお湯に変わり、リラックスできるようになった。フィリップはボディ・ウォッシュをスポンジにつけた。フルーツの香りがした。
早速、熱いお湯を楽しみながら、スポンジで身体を擦り始めた。快適だった。
だが、お尻の割れ目を洗う時、手がアヌスを擦り、彼はもう一度、きゃーっと女の子のような悲鳴を上げそうになったのだった。そこが信じられないほど感じやすくなっている! しかも、決してイヤな感じじゃない。もっとその感じを試してみたいという気持ちも部分的にあったが、彼はその衝動を抑えこんだ。
フィリップはすぐに身体を洗い終え、タオルで水気を拭った。それが終わるとタオルを床に落とし、素裸のままドレッサに向かった。いまだフィリップは裸でいることが悩ましかったが、今は、最初ほどではなくなっていた。
ドレッサの引き出しを開けると、中には女性用のランジェリが入っていた。赤いレースのパンティを取り上げ、うんざりしたような溜息をついた。自分は何を求められているのか、だいたいは想像できてはいるが、その目的が何なのか、見抜くことはできなかった。ただ、これに従わなければ、またスタンガンでやられるだろうし……さらに悪いことに、元の部屋に戻されるかもしれないとは知っていた。それに、これはただの衣類じゃないか。どうってことない。
フィリップは、少なくともコットンのものはないかと引き出しの中を漁った。薄青の地に黄色の点々がついたものをいくつか見つけた。フィリップは滑らかな脚にそれを通し、履いた。
鏡を見た。パンティの中、ペニスの存在がほとんど見えない。
彼は他の引き出しも全部開けてみた。その中のひとつには、レオタードが二着ととストッキングがいくつか入ってた。別の引き出しにはショートパンツが入っていた(高校のチアリーダーが練習するとき履くようなパンツである)。最後の引き出しには、タンクトップとTシャツ類が入っていた。
フィリップはショートパンツとTシャツを着ることにした。Tシャツは小さかったが、そんなに不快なわけではなかった。とはいえ、シャツの裾はかろうじておへその下に来る程度だったし、ショートパンツもベルト部分がいささかおへそより下の辺りに来るものだった。結果として、かなり腹部の肌を露出するようになっていた。
フィリップは再び鏡を覗きこんだ。後ろを向いて、女の子っぽいお尻を見てみた。あの人たちは自分にいったい何をしたんだろう?
「まるで、ぺちゃパイの女の子のようだ」 と彼は独りごとを呟いた。
それを声に出して言ったことで、自分の現実が一挙に腑に落ち、彼はめそめそ泣き始めた。ベッドに身を投げ、ふわふわの枕に顔を埋めて、声に出して泣いた。しかし、感情的に消耗する一日だったことと、温かく柔らかなベッドのおかげで、そのすぐ後に彼は知らぬ間に眠りに落ちていた。
その夜、彼は大きな黒人たちのペニスの夢を見た。
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二日後、トニーは新しい動画を受け取った。彼は動画が添付されてるのを見て、すぐにメールを閉じた。連中が息子にしていることなど、見たいと思わなかったから。だが、その数分後、彼はメールを再び開け、動画を再生した。
ダンス音楽が鳴り、画像がフェードインした。フィリップはダンス・スタジオらしき場所に突っ立って。踊っているわけではない。チアリーダーのようなショートパンツを履き、ピチピチの丈の短いタンクトップを着ていて、お腹が露わになっていた。ベース音がなると、フィリップは頭を上下に振り始めた。そしてビートに合わせて腰を回転させ始める。そして、ようやく、音楽に合わせて非常に性的な含意に富んだ踊りを始めた。
トニーは動画を切った。見たいとも思わない。だが、やはり数分後、彼は再び再生を始め、今度は最後まで見たのだった。ダンスを終えた時、フィリップはすっかり息切れしていた。片方の前腕を身体に直角につけ、手首を曲げて、もう片方の手を大げさに振って、自分の顔に風を送っていた。明らかに女性的な仕草だった。
その1週間後、トニーはまた別の動画を受け取った。だが今回はこれまでとは違った。これは、他の者が演出してる感じがまったくしなかった。誰かが単にホームビデオを撮ったような感じの動画だった。その中で、フィリップは前の動画の時と同じような服装をしていたが、ショートパンツの上のところが捲られていて、さらに肌を露出していたし、ピンク色のソング・パンティもチラリと見えていた。
動画は、単にフィリップがストレッチングをするところを映していた。フィリップは驚くほど身体が柔らかだった。両脚の全開脚を苦労することなくできていて、さらにその姿勢のまま、前に身体を倒し、床にあごをつけるところまでできていた。そのポーズを20秒ほど維持し、それから立ち上がった。
それから後ろ向きになって、ゆっくりと前屈みになった。膨らんだ臀部をカメラに惜しげもなく見せる。その姿勢を数秒続けた後、また身体を戻し、リラックスして立っていた。何か飲み物をもらっている様子で、誰かと雑談していた(ただ、音声はまったくない)。そのおしゃべりする時の仕草は完全に女性的で、立っている時も背中を少し反らし、胸を突きだした姿勢でいた。
すると突然フィリップが笑いながら体をぶるぶると揺らし始めた。誰かが彼にそうしてみたらと言われたようだった。そして動画はそこで暗くなった。
トニーは無力感を感じていた。警察による捜査はまったく進んでいない。いったい何が起きてるのか分からなかったし、今の息子は息子と言うより娘に近いように思われてしかたなかった。
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