「おい、アンドリュー、こうしたらいいんじゃないかな? 君の方向にボールが飛んできたら、ラケットを振り上げて、ボールを打とうとしてみるんだよ。その後はどうなるか分からないけどね。運が良ければ、打ち返せるかもな」
そう言ってからかうジェイクを、アンドリューはうんざりした諦め顔で見た。アンドリューは立場が逆転している時でも、ためらうことなくジェイクに忠告をする人のような気がした。
「ほっといてくれ。今日は僕にとって最悪の日なんだ」
「君はテニス・イケメンだってよく言ってったよね。でも、今は、君はただのイケメンだと分かったわけだ。君のことを知って、僕はとても誇りに思うよ、創始者殿」
アンドリューは、見たところ、済まないと謝るような顔を彼の妻たちに向けた。彼はドニーが雑誌を読むのに没頭してるのを見た。彼女がドニーだと分かったのは、私が話しかけていた人がディアドラだったから。
「ああ、ドニー。君はそれを一日中、独占するつもりなのかい?」
ドニーは、広げたままの雑誌の写真から顔を上げた。まるで、アンドリューがいるのに、その時、気づいたような顔をした。
「アンドリュー! そこにいたの? あのね、私たちとても喜んでるの。私たちの夫が、一度にふたりもプレイメイトとヤッタって! この記事のコピーをあなたのお母様に送るべきだと思うの。お母様もきっととても自慢に思うと思うわ」
「ママは、僕には才能があるといつも言っていたけど、それがどんな才能なのか、僕にはずっと分からなかった。僕が何をしたって? 僕にも見せてくれる?」
ドニーはにんまりとした顔になって私に言った。「彼、この人たちが誰か、覚えてすらいないはずよ」
ジェイクも頭を縦に振った。「その通り。こいつは、彼女たち、どんな顔をしていた? って俺に聞いたんだ。俺はこう答えたよ。もし俺がプレイメイトふたりとベッドを共にすることになったら、絶対に顔を忘れたりしないってね。この男は病気なんだよ」
「その男には、見たことがある他の顔をすべて忘れさせてくれるような妻がふたりもいるんだ」
ドニーはそれを聞いても微笑みすらしなかった。彼女はそれをすでに知っていたから。ドニーは雑誌をアンドリューに渡した。アンドリューは中開きを見た。そこには見目麗しい美女がその肉体的魅力を見せびらかしている写真が載っていた。
彼は頷き、言った。「ああ、そう。このふたりね。ちょっと覚えていると思う。確か、名前がDで始まるよね? そうだろ?」
ディアドラはアンドリューの顔を見て、寛容な微笑を見せ、それから私に言った。
「彼がお相手した女性は全員、Dの文字で始まる名前をしているの。だから、彼、外れっこない推測を言っただけなのよ。彼は、IAMの中のD世代の女性に子供を授けてきてるの」
「そうだよ。それがいかにひどいことか! さらに悪いことに、僕には千人ほどの子供がいるというのに、そのいずれもEで始まる名前を持ってる。ギネスの世界記録集に掲載するか検討すべきじゃないのかな?」
ドニーが言った。「いいえ、本当の世界記録は、千人も子供がいて、その中、800人以上の女の子がいるにもかかわらず、エディスとエーテルとエドナという名前はひとりもないこと。一番ありふれた名前なのに。それこそが、アンドリューが生殖の前に相手の女性に同意を求める主要な条件なの」
アンドリューは自己弁護しようとした。「その名前が嫌いなんだよ。エーテルなんて名前の子供を欲しい人なんているのか?」
私には、創始者が人生について子供じみた考えを持ってるのが見てとれた。どうりで、ここにいる素晴らしい彼女たちが彼と一緒になっているのか腑に落ちた。彼はルックスは素敵だし、ベッドでも驚異的だし、知性にもあふれている。だけど、その一方で、無邪気だし、遊び心もある人なのだ。