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普通の男 (3) 

*

翌日、ビリーは会社に病気で休むと電話を入れた。同僚たちに顔を合わせる気になれなかったのである。メアリも同じく会社を休んだ。

お昼頃、ビリーは24時間報道をしているニュース番組を見ていた。パニックの最初の兆候が現れたニュースである。キャスターは全員、女性だったが、それは必ずしも不思議なことではない。男性キャスターの多くは声が変わったのを受け、番組を休んでいたからである。ビリーが興味を持ったのは、そのことではない。報道の内容の方だった。

愛らしい顔の女性アナウンサーが言った。

「世界中で白人男性が変化を見せています。大半の男性は否認していますが、中には変化を受け入れた人もおられます。さらには暴力で反応した人もいます」

画面には女性的な顔をした暴動者たちの光景が映った。

「しかしながら、このような暴力の突発的発生は、懸命に働く私たちの警官のおかげで、簡単に鎮静化している模様です」

全員黒人の警察官たちが、はるかに人数では上回る白人男性の暴動者たちを取り抑える光景が映った。

「政府は感染したすべての男性に、落ち着くよう求めております。また、この事態の解決策もじきに現れると言っております。医師たちは、オマール・ベル博士がもたらしたことを元に戻す方法を探って、24時間体制で研究を進めているとのことです。…では、次のニュースを……」

ビリーは関心を持つことをやめた。うつ状態に沈んでいるわけにはいかないことは知っていた。そうしても、何の解決にもならない。また、怒りを抱いても、何にもならないのも確かだった。彼は、ごく普通に、それまでの生活を続けることに決めた。

「メアリ?」 と彼は妻を呼んだ。メアリは読んでいた雑誌から顔をあげた。「僕は大丈夫だと思う。つまり、何が起きても、起きるようにしかならないということ。僕には何もできないということだよ」

「本当に大丈夫?」

ビリーは頷いた。

少し間を置き、メアリはにっこりと笑顔になった。「何かあなたの気を紛らわすことができないかしら?」

ビリーも笑顔を返した。

「いくつか考えられるけど…」 と彼は立ち上がり、メアリの元に来て、顔を近づけ、キスをした。

ビリーはシャツの裾を持ち、頭から脱いだ。メアリはすぐに彼の乳首に口を寄せた。舌を出して、彼の乳首を小刻みに弾く。すぐにメアリはそこの愛撫に精を出し始め、ビリーはエクスタシーに身体を震わせた。

メアリは徐々に下方に動き、ビリーの滑らかで丸いお腹にキスをし、さらにはペニスへと降りて行った。彼女はビリーのペニスと睾丸を同時に口に含み、吸い始めた。

いったんメアリが空気を吸うために顔をあげると、ビリーはカウチに仰向けに座り、両脚を大きく広げた。メアリがもっと良い角度でできるようにである。彼女は再び彼の股間に顔を埋め、小さなペニスを舌でちろちろ愛撫し、ビリーに背筋を震えが走るような刺激を味わわせた。

こんなに興奮していない状態だったなら、ビリーは自分の性器について気にしていたかもしれない。かつては18センチはあったペニスも今は完全に勃起して5センチ足らず。かつてはゴルフボールほどの睾丸も、今はブドウの粒よりちょっと大きいだけになっていた。だが、この時は、メアリが脚の間に来ていたので、そんなことは気にせずにいられた。

メアリは口からいったん出し、息を吸った。

「中に来て」

ふたりは位置を変え、今度はメアリが脚を広げた。だがビリーは、それでは彼女の中に挿入できない。元々、創造力のあったビリーは、自分も脚を広げ、ふたりは女性同士が股間を擦り合わせるような形で脚の間をくっつけた。その姿勢なら彼は挿入できる。そしてメアリは喘ぎ声をあげた。ビリーは不自然な格好ながらも出し入れを続け、やがてふたりとも絶頂に達した。

ふたり、抱き合ってカウチに横になった。ふたりとも顔を火照らせていた。

*

さらに2ヶ月ほど経った。あまり目立った変化はなかった。ニュースでは、医師たちが24時間研究を続けていると言っていたが、目立った成果は上がっていなかった。

ビリーは新しい愛しあい方に慣れていた。時々、ビリーとメアリは互いに口だけを使って愛しあった。ビリーはクンニリングスが非常に上達し、得意になっていた。それに、確かに昔のように後背位や騎乗位でのセックスはできなくなっていて、その点は残念だったが、ビリーは妻とトリバディズム(レスビアンの女性が相手と股間を擦り合わせる行為)をするのを楽しむようになっていた。「トリバディズム」というのはレスビアンの行為を表すのはビリーも知っていたが、彼はそれ以外の表現方法が思いつかなかった。おおまかに言って、基本的に生活には問題がないと言えた。

だが、それも彼が縮小し始めるまでのことだった。他のすべても同じなのだが、変化は徐々に起こるのである。ある朝、ビリーが目覚めると、ズボンが10センチ近く長くなってるのに気づいた。いつか来るだろうとは知っていたが、彼はその時まで、そのことを一種、考えないようにしていたのだった。

ビリーは身長を測ることにした。170センチ……10センチは背が低くなってしまった。他には特に何もないが、これは進行するだろうなと彼は思った。

ビリーはズボンの裾を捲り、ピンで押さえて職場に行った。彼は気づいていなかったが、この変化が始まってから、職場の黒人男性の何人かが、少し、支配的に振舞い始めていた。どこと言ってあからさまな変化ではなかったが、ただ、黒人以外の男たちが経験している変化のことを考えれば、彼らが支配的になるのは、ある意味、当然と言えた。

ビリーの職場のビルディングの管理業務をしてる人のひとりが、特に傲慢な態度を取っているように彼には思えた。ビリーはその男の名前すら知らないが、顔は知っていた。それにその男の体つきも。さらにはその男の体臭すらも。

ある日の夕方、ビリーがエレベータに乗った時だった。その体臭がビリーを迎えたのだった。男は190センチはあり、ビリーを見おろし、ニヤリと笑っていた。その笑い方は、同僚とか友人に対して見せる種類の笑顔ではなかった。さらに、女性に対して見せる笑顔とも違う。その笑顔の意味は少なくともビリーにはきわめてはっきりしていた。それは、この男はビリーより優位にあるということを示す笑顔。ビリーも恥ずかしげに笑みを返したものの、すぐに、つつましく、うつむいた。

男がエレベータから出て行くとすぐに、ビリーはハアーっと息を吐いた。心臓がドキドキしていた。それに明らかに乳首が立っているのを感じた。

仕事からの帰り道、ビリーは、その時の出来事が頭から離れなかった。いったい何が起きたんだろう?


[2014/06/02] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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