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その夜からビリーは様子を変えた。メアリとハサミ合わせの格好で交わることは滅多になくなった。メアリも彼のペニスにほとんど触れなくなった。だからと言って、セックスがなくなったというわけではない。今はセックスと言えば、メアリがストラップオンをつけてビリーを犯すことになっていた。ふたりとも知っていた。ふたりの関係ではメアリが支配的な立場にいるということを。メアリが男なのである。
毎晩のように妻に犯され、かつ、態度を変えない男などあり得ない。ビリーは従属的になっていた。何か決定するにしても他の人に任せる方を好むようになっていたし、職場でも、他の人の判断(特に、影響を受けなかった黒人男性の判断)に従うようになっていた。ビリーは、黒人男性が同じ部屋にいると、なぜか強く気になるようになっていたし、ふと気がつくと、男に犯されたらどんな感じなんだろうと思っているのだった。
そして、その思いが次第に暇な時の彼の思考を支配し始める。そのことと、最近ますます従属的な正確になってきたことが相まって、またも大きな人生の転換に結び付くことになったのだった。
ビリーがデスクでコンピュータの表計算をぼんやりと見つめていたときだった。突然、電話が鳴った。
「ちょっと俺のオフィスに来てくれるか?」
電話の向こうの男が言った。その男は自分の名を言う必要はなかった。ビリーには誰だか分かるからである。ビリーの上司だった。彼の上司は非常に我の強い黒人であった(もっとも、最近はどんな男もビリーにとっては我の強い存在とはなっていたが)。名をクラレンス・スミスと言う。
「はい、かしこまりました」とビリーは答えた。
ビリーは早速クラレンスのオフィスに向かったが、歩きながらあることに気がついた。お尻をちょっと振りながら歩いていることに気づいたのである。ビリーは思わずにっこりした。これってメアリのディルドに毎晩やられてきたせいかも、と。
クラレンスのオフィスに着き、ビリーはドアをノックした。
「どうぞ」と中から声。
ビリーはドアを開け、中に入った。
「そこに座りなさい」
クラレンスは、いつも以上に威圧的な感じがした。背丈は180センチを軽く超え、元運動選手のような体格をしている。
ビリーは腰を降ろし、両膝をぴったり合わせ、両手を膝に置いた。
「多分、ここに呼ばれたわけを知ってると思うが…」とスミス氏は話しを始めた。
「あ、いいえ…」と答えようとしたが、クラレンスはその言葉を遮った。
「君の仕事が低下してるのだよ。私が見たところでは、最近、君は仕事に集中してないのじゃないか。まあ、君たちがいろんな目にあってきているのは知っている。君たち全員がな。だが、これはビジネスなんだ」
「でも、スミスさん……」 とビリーは言おうとしたが、また遮られた。
「会社は君を解雇する予定だ、ビリー。もっと言えば、いま会社は会社全体をリストラしようとしている。仕事に集中していない社員を何人か解雇するということだが」
「私は…」と言いかけたが、ビリーはやめた。「分かりました」
「反論なしかね? よろしい。だが、君にも分かると思うが、悪い知らせばかりではないのだよ」 と言ってクラレンスは微笑んだ。
アレと同じ頬笑みだ。ビリーに餌の骨を投げるような笑い。
「君は解雇手当を得ることになる。それに、君が本当に仕事が必要だと思い、我々の方にもポジションの空きがあれば、別の仕事をあてがわれるだろう。もちろん、いまの仕事ではない。もっと君の能力に適した仕事だ。だから、その場合は遠慮せずに私に電話しなさい」
「かしこまりました」
「じゃ、いってよろしい」
ビリーはドアを開け、オフィスを出ようとしたが、ちょっと振り向いて声をかけた。
「スミスさん?」
「何だね、ビリー?」
「チャンスを与えてくださって、ありがとうございます」
スミス氏はただ笑っただけだった。
ビリーはドアを閉め、歩き始めた。その顔には笑みが浮かんでいた。スミス氏がずっと彼のお尻を見ていたことに気づいたから。
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後で分かったことだが、会社のほとんどすべての白人男性が降格させられたか、解雇されたかのどちらかだった。中には抗議する者もいたが、彼らの仕事は低下していたのは事実で、会社側にも解雇する充分な根拠があった。大半の職位には、若い黒人男性が代わりについた。
ビリーについていえば、それほど生活は悪くなかった。メアリは実家のコンサルティング会社の跡継ぎになっていて、そこそこ上手く経営していたし、ビリーの解雇手当もあって、それほどお金に苦労はしていなかった。
ただ、この過程を通して、ビリーの生活にはさらに変化が生じていた。身体的な変化はすでに完了していた。ベル博士が起こると言ったことすべてが、すでに彼の身に生じていた。いまビリーは身長160センチ、体重50キロだ(彼はもっと痩せたいと思っていたが)。顔は丸くなり、ツンと尖った可愛い鼻。それに眼は前より大きくなった感じだった。さらに、頭から下には一切体毛がなくなっていた。すでに縮小したが未だに若干の機能を保っている陰部の周りにすら、体毛がなくなっていた。
腰は大きく膨らみ、お尻も丸くなっている。端的に言って、彼は女性になっていた。ただし、小さなペニスがあるが、乳房がない女性だ。彼は35歳だが、それより若々しく見え、20代前半のように見える。
そして、こういう変化をしたのはビリーだけではなかった。報道によると、合衆国とヨーロッパの白人男性の全員がこのような変化を見せていると言っていた。それにアジア人の半分も。だが、黒人では変化を示した例は1件もないと言う。
ベル博士が予測した通り、世界は変わりつつあった。
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