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報復 第1章 (13) 

スティーブは車のエンジンをかけ、ギアをローに入れた。物置の陰から車を出し、ゆるい坂を下り、あっという間にサンダーバードの後ろにつけていた。彼は、怒りが突然息を吹き返したとき、何をするつもりか、自分でもまったく考えていなかった。だが何かをしなければ気が治まらなかった。スティーブは何か計画していたわけではなかったし、ましてや、結果がどうなるかなど考えたこともなかった。だが、車をサンダーバードの後ろにつけたとき、何をするかはっきり心に浮かんだのである。

彼はブレーキを強く踏んだが、それで巨大なラム・チャージャーの勢いを完全に殺せたわけではなかった。彼の車の強化フロント・バンパーは、サンダーバードの後部にある低いバンパーには不釣合いだった。スティーブのピックアップ車のバンパーは、あっという間に、相手の車のバンパーの上に乗り上がった。サンダーバードのトランク部にあたる薄い金属部は、スティーブが前進するのに伴って、歪み、へこんだ。

スティーブは、ギアを4輪駆動のモードに切り替え、アクセルを踏み込んだ。それに押された相手の車は、ゆるい坂をじわじわと下り始め、前方にある緩やかな川の流れに進んでいった。スティーブの乗るラム・チャージャーのボンネットの中には数百馬力のエンジンが入っている。その力をすれば、より小型のシルバー色のクーペを、恐怖のあまり死に物狂いになっている2人の乗客もろとも、川の中へ落とし入れるのに十分だった。

スティーブには、エンジン音の唸り声に混じって、あの2人の声高な叫び声が聞こえていた。この1週間で、初めて、スティーブの口元に笑みが浮かんだ。ただし、悪意に満ちた笑みだった。彼は、サンダーバードの車体の側面が水につかるまで、押し続けた。そして、最後の一押しを与えた後、ようやくアクセルを戻す。ギアをバックにいれ、ゆっくりと川からバックした。

ピックアップのタイヤが4本とも、乾いた大地の上に戻ったのを確認し、彼は車を止め、4駆モードから解除した。ギアをパークにいれ、エンジンを切る。それから、床に置いておいた布を拾い上げ、それを使ってビデオカメラをダッシュボードの上に固定した。川に沈んでいくサンダーバードが中心に写るようにセットする。それが終わってようやく、自分の行ったことを調べるため、車から降りた。

川の岸辺に歩いていき、狭い車室の中、いまだ狂ったように動いている二人を見た。その数秒後、開けた窓から、バーバラとポーターが慌てながら一緒に抜け出てきた。2人とも水に落ち、這い上がってきたときには、鼻から水を噴き出し、目についた泥を拭っていた。スティーブは、ラファエル・ポーター氏が何か怒鳴っているのは耳に入っていたが、何を怒鳴っているかなど、まったく興味がなかった。そもそも、聞くつもりがない。

彼は、ポーターがズボンを上げるのに苦労する様を眺めていた。ズボンを上げようとするたびに、その中に水が入り、元通りに履きなおすことができないのである。スティーブは、この男がどんなに苦労していても、全然気にしなかった。

むしろ、スティーブの関心は妻の方に集中していた。彼女が彼をにらみつけるのを見た。彼女は、ようやく、この男がスティーブだと気づくと、よろめくように後ずさりし、川底の穴につまづいてしりもちをついた。再びびしょ濡れになり、這い上がってきたときは、彼女はほとんどヒステリックになっていた。

「レイフ!! ああ、大変!! 私の夫よ!!!」

スティーブは、この妻の叫びを、彼女のセックス・フレンドに向けられた警告と解した。彼女が名を呼んだこの男は、自分が誰であるかすでに知っているのだろう。ラファエル・ポーターはようやくズボンを履き、チャックを閉めた。そしてスティーブに向かって歩いてくる。歩みを進めるたびに、何か罵りながら。

「レイフ! やめて! 彼、銃を持っているわ」 バーバラが叫んだ。

レイフと呼ばれる男は、バーバラの叫びを聞くと、歩みを止めた。2歩ほど後ずさりもした。

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