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ビリーは自分が非常に可愛い存在であることを知った。本物の(黒人の)男たちみんなから視線を浴び、そのことをはっきりと自覚できた。実際、ほとんど化粧をしなくても、彼は大半の女の子よりも可愛いかったのである。
彼とメアリはモールの中を歩いた。ビリーは圧倒された。いたるところに、ほとんど裸同然の白人の男の子(boiと呼ばれていたが)の広告写真が飾られていたからである。広告の中のboiたちはすべて化粧をし、非常に女性的な服装をしていた。ビクトリアズ・シークレット(
参考)ですら、新しく誕生した人々に商品を提供していた。boi用のランジェリや、小さなブラジャーすら売っていた。そのブラジャーは乳房が揺れるのを防ぐためではなく、薄地のシャツを通して乳首の突起が見えるのを防ぐためだろうとビリーは思った。
メアリはビリーに山ほどランジェリを買った。パンティ(ソング(
参考)、フレンチカット(
参考)、ボーイショーツ(
参考)などなど)も、ストッキングも、ガーターベルトも、さらにはboi用のブラまで。
それから、ふたりは普通の服の店を何軒か訪れた。メアリはビリーにいろんなタイプのショートパンツ(非常に裾が短いのが普通)、ブルージーンズ、そして細いストラップの丈の短いタンクトップからカジュアル・シャツに至る広範囲のトップを試着させた。大半は身体に密着したピチピチのもので、どのトップでもビリーの乳首が見えてしまうものだった。
だが、ビリーにとって最もショックだったのは、スカートを履くboiの数の多さだった。ミニスカートであれロングであれ、少なくともboiの半分はスカートを履いていた。チアリーダの服装をした10代のboiすらいたのである。
ビリーは、意図的に、変化の効果をテレビやコンピュータで見るのを避け続けてきた。だが、家を出て、ショッピングモールに来たからには、どうしてもそれを目の当たりにせざるをえない。どうやら、白人男性という概念は過去のモノになってしまい、白人boiによって取って代わられたようだった。
(メアリはまだまだビリーに試着させたいものがあったのだが)ショッピングのお祭り状態が半分までさしかかったころ、ビリーは自然の要求のためトイレに行きたくなった。そしてトイレに行って、彼はまたも驚いたのだった。今はトイレが3ヶ所に分かれていたのである。ひとつは女性トイレ、もうひとつは男性トイレ、そして、3つ目がboi用のトイレだった。ビリーは自分がどれに入るべきか知っていた。
boiのトイレに入ると、boiがふたりほど化粧を直していた。小便用の便器はなく、ビリーは個室トイレに入った。ビリー自身、しばらく前から立って小便をすることが上手くできなくなっていた。彼はジーンズとパンティを降ろし、便器に腰かけた。
「あのね、あたし、リロイに誘われたのよ」
外でboiのひとりが言うのが聞こえた。とても甲高い声をしている。たいていの女性よりも高い声だった。
「それで…?」 ともう一人が訊いた。
「そうねえ、彼ってとってもエッチなの。絶対、ケダモノのようなセックスするわよ」 最初に話したboiがそう答えた。もう一人がクスクス笑うのが聞こえた。
「分かったでしょ? 私が言ったじゃない? そういう服になれば、簡単におちんちんをいただけるって…。男たちはboiか女の子かなんて気にしないの。基本的に私たちは女と同じよ。おっぱい好きの男は除外するけど」
「どうなんだろう。分からないなあ。何と言うか…。あなたも知ってる通り、あたし、昔は女のことばっかり考えていたでしょ? でも今は、男のことばっかり……。強い腕に抱かれるととても気持ちいいし、脚を広げられて…うぅぅぅん……」
「最後まで言わなくていいわよ。それはどのboiも同じ気持ち。でもね、ちゃんとシグナルを送り続けるのよ。そうすればリロイが近づいてくるから。男たちはいつも……」
会話の声が遠くなった。ふたりの男狂いのboiたちがトイレから出て行ったのだろう。
ビリーは用を済まし、股間を拭いた(良いboiは終わったら、きちんと拭く!)。そしてパンティとジーンズを引き上げた。トイレから出て、キュートなドレスを見ていたメアリのところに戻った時も彼は少し茫然としていた。
ショッピングを終えた後も、ビリーは上の空の状態だった。その理由のひとつは、あのふたりのboiの会話だった。もうひとつの理由は、モールを歩きながら自分が他の男たちのことを気にしていることに気づいたことだった。かなり多くのboiたちが黒人男と手をつないで歩いていた。明らかにカップルだと分かる。だが、カップルのように見えるboiと女性のペアはまったく見かけなかった。
「じゃ、映画でも見に行く?」 メアリが声をかけ、ビリーは我に返った。
「ああもちろん」
「どれにする?」
「何でも。君が選んで」 とビリーは微笑んだ。
メアリはビリーとチケット売り場に行った。ビリーはもぎりのそばでメアリがチケットを買うのを待った。メアリはチケットを買って戻ってくると、「何か食べるもの欲しい? ポップコーン?」
ビリーは頭を振った。「いや、特に」
「オーケー」 とメアリは言い、ふたりは劇場に入った。
その映画をビリーはとても啓蒙的だと思った。新しく作られたのは明らかで、それは黒人男性と20代の若いboiとのロマンチック・コメディだった。ラブシーンまでもあった。そういうところもあり、ビリーはとてもその映画を楽しんだのであるが、深い意味を考えると、世界はずいぶん変わってしまったのだと思わざるをえなかった。
白人のboiと女の子は、今はほぼ同じ土俵に立っていることになったのだ。両者とも、同じもの、すなわち黒人男性を求めて競い合う間柄になっているのだ。
このことがビリーをかなり考え込ませたのは確かだった。