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オマール・ベルの世界 (7) 

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ディーンはマーセルの腕の中に飛び込み、愛情たっぷりにキスをした。

辛い6ヶ月だった。ディーンは不在の恋人のことを思い、とても寂しい思いをしていたのである。

かつては、ふたりとも兵士だった。だがグレート・チェンジにより直ちにディーンの見方が変化した。軍に再登録するかどうかを決める時期が来た時、ディーンは市民の生活を選び、マーセルは兵士として続けることを選んだ。

ディーンが変化をする間ずっと、マーセルはディーンを支援した。そしてディーンが軍を離れた後も、ふたりは連絡を取り続けた。間もなく、ふたりの間に恋の火花が飛び、ふたりは親密になった。

それが3年前である。今、ふたりは結婚している。マーセルが家にいるときは、ふたりにとって、それ以上幸せな時はない。

しかしながら、ディーンはマーセルの身の安全を心配しないわけにはいかないのである。彼は、マーセルが今度の行軍が終わったら、もっと静かな生活に落ち着いて欲しいと願っている。

いずれにせよ、ディーンは愛する男と一緒にいられる時を楽しむようになった。私の愛する恋人、私のオトコ、私のマーセル。

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ジェリーはレイチェルの瞳を見つめた。腕を彼女の腰に絡めながら。そしてこの場所、この瞬間、彼は分かったのだ。ふたりの間の愛が戻ったと。

ふたりはかつて、ずっと前まで、結婚していた。だがグレート・チェンジとそれに伴って生じた新しい見方がふたりの関係に終止符を打った。

だが今、ふたりはここにいる。フランスのヌード・ビーチで。再会はまったくの偶然だったが、ふたりの間に炎が再燃した。

今度は、ふたりの関係は持続するだろうか? ジェリーには分からなかった。正直言って、ほとんど気にしなかった。どんな疑念の陰があろうとも、分かっていることが一つだけある。それは、今この瞬間、彼は人生の他のどんなことより、レイチェルと一緒にいたいということ。

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背後からダンテにゆっくり挿入され、トリイは叫び声をあげた。痛みはあったが、少しだけだった。いや、痛みよりもはるかに快感の方が大きかった。そして彼の叫び声もそれを反映した声であった。

グレート・チェンジから6年が経っていたが、まさにこの瞬間まで、トリイの男性としての自我が生き残っていたのである。白人男性としての自我がますます弱体化されていったにも関わらず、その過程を生き延びてきていたのだった。彼は新しいファッションの衣類を着るようになっていたし、時には性欲に負けて、ディルドを購入もした(実際、それでほぼ毎日、自慰をしているのであるが)。だが、彼は最後の一線だけは越えまいと、男性と交わることは拒否し続けたのである。治療法が見つかるまでは、決してこの一線は越えないと。

もちろん、トリイは治療を受けるつもりでいた。もう一度、男性に戻りたかった。だが、彼の中に、boiであることで可能なことをすべて、少なくとも経験しておきたいという気持ちもあった。そのようなわけで、かなり思案したあげく、トリイはboiとしての本能に身を委ねてみることにし、本物の男を求めようと決めたのだった。そして彼はダンテと知り合った。

トリイは心の準備が不十分だった。ダンテと知り合い、その結果として得た経験はそんな未熟なトリイには圧倒的だった。ダンテに抜き差しを繰り返される間、純粋な、真に混じり気なしの快感がトリイの全身を襲ったのである。

行為が終わり、トリイは新しい恋人の腕に包まれながら、考えることはたったひとつだけだった。

「いろいろあるけど、boiであることも、そんなに悪くないわ」

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「ヤダ! ノックくらいしてよ!」

「あら、恥ずかしがらなくてもいいじゃない? boiと女の子の間には、隠すものが何もないものなのよ。それに、どうせ、あんた、オトコとは言えないしね」

ミグエルはバスルームのドアが開く音を聞いて、振り返った。彼はシャワーを浴びようとしていたところで、ほとんど裸になりかけていたところなのである。

バスルームの入り口には彼の姉が立っていた。顔にかすかに笑みを浮かべている。彼の姉がグレート・チェンジの結果を楽しんでいるのは明らかで、1年前のあの日からずっと、ミグエルを容赦なくからかい続けてきたのである。あの、極悪のベル博士が世界を変えたあの日から。

最初、ミグエルは自分は感染しないと思っていた。だが彼は間違っていた。彼は、感染を受けた数少ないラテン系男性のひとりだった。そして、グレート・チェンジ後の1年間、数多くの偏見に見舞われてきたひとりであった。

毎日、ミグエルは思った。ラテン系のboiはどんな生活を送ることになるんだろうと。そして、毎日、彼はアメリカで生活したいと切に願った。この国より、アメリカの方がboiたちが受け入れられているからである。たぶん、いつの日か、彼はアメリカに行くだろう。ミグエルは、何よりも、その日が早く来ることを願っているのである。

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パムは息子のコリーを見て溜息をついた。グレート・チェンジから2年が過ぎようとしている。なのに息子は今だに自分自身の姿や、自分自身の振舞いに慣れていないのだ。

彼は高校を卒業してから1年も経っていない。いま彼は、大学の冬休みで、帰省している。故郷での生活をとても楽しんでいる様子だ。

だが、パムはどうしても思い出さずにはいられない。あのグレート・チェンジが起きた後の数ヶ月間、息子がどれだけ苦しんだかを。ほぼ半年間、息子は毎晩のように泣きながら眠った。そして、身体のサイズに合う服を着ることに同意するまでも大変で、半年より長い期間を要したのだ(コリーは、昔の、身体に合わない男ものの服を着るといつも言い張っていた)。

大学に行った後も、コリーは殻に閉じこもったままだった。彼は引きこもりになり、パムが恐れたとおり、うつ病になったのだった。

いまは、その面影がまったくなくなっている。大学で何が起きたのか、パムは知らなかったが、知りたいとも思わなかった。母親としては、コリーが自分自身で心穏やかでいられるようになったというだけで充分なのである(心穏やかどころか、今は、boiであることを実質、誇りに思っているようでもある)。

たった2ヶ月ほどなのに、すごい変わりようね、とパムは思うのだった。


[2014/06/30] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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