ポールは大きなヨガリ声をあげた。女のような甲高い声が部屋に響いた。身体を上下に動かし続ける。巨大な黒いペニスが彼の濡れたアヌスに出入りを繰り返す。
クレート・チェンジの前は、彼は兵士だった。まあ、陸軍の資材配達の事務の仕事だったが、それでも軍隊に所属していた。だが任務期間が終わりになったものの、彼は再登録はできないだろうと知っていた。軍以外の職場で仕事を得たいと思っていたわけではないし、他に何ができるかも分からなかった。売りに出せるようなスキルもなければ、大学で勉強する気持ちも持っていなかった。
ベルが生物エージェントを撒き散らしたのは、実際、彼にとって渡りに船といってよかった。声が変わり、身体が縮小し、男性に対して性的な欲求を持ち始めた当初は、彼はグレート・チェンジをそういうふうには見ていなかった。しかし、男たちが彼に視線を向けていること、もっと言えば、自分の身体を欲しがっていることに気づくのに時間はかからなかった。そして、そういうわけで、ポールはそのことを自分のために使うことに決めたのである。
それは大変うまくいった。男たちは彼にいろんなものを買い与え、彼を支え、些細な苦情にも気を使てくれた。それもこれも、彼の気を引くためにである。ポールは、男たちに甘えたり、焦らしたりする方法を覚え、最後には、男たちを喜ばす方法も覚えた。
だが、ポールは自分の容姿がいつまでもこのままであるわけがないのを知っている。なんだかんだ言っても、彼はバカではないのだ。というわけで、彼は夫にできそうな男を探し始めた。
彼がヘンリーと出会ったのはグレート・チェンジのおおよそ4年後の頃だった。その半年後にふたりは結婚し、ポールは比較的裕福な生活を始めている。考えてみれば不思議なことだった。ポールは大人になったら何になろうかと様々なことを考えていたのだが、夫ご自慢の専業主婦になることだけは、そのリストにはなかったことだったから。
とはいえ、彼は幸せである……曲がりなりにも。
*****
またもオーガズムに達し、全身が快感の波に襲われるのを感じ、サムは背中を反らし、叫び声をあげた。だが、それでもジャネットはやめようとしなかった。彼女は、かまわず、彼のアヌスに突きを送り続けた。そしてまたもサムは絶頂に達する。まだ、前のオーガズムから回復していなかったというのに。
何度も何度もそれが繰り返された。そして間もなく、サムもジャネットも疲れ果て、ぐったりと横たわった。ジャネットと横になりながらサムは思った。どうして僕は、自分がboiであることを認めるのにこんなに時間がかかってしまったのだろうかと。すでにグレート・チェンジから2年が経とうとしていた。その2年間、サムは今のような身体の反応にずっと抵抗し続けていたのである。グレート・チェンジの後、すぐにアナル・セックスは常識になっていたにも関わらず、彼は断固としてそれを拒み続けていたのである。
多重オーガズムの余韻に浸りながら、サムは頑固に男性性にしがみついていたことを後悔した。
サムはガールフレンドに目をやり、微笑んだ。サム同様、ジャネットも、彼が失われた時間の埋め合わせをしたがっていることを知っている。
*****
トムとグレッグはもう飽き飽きしていた。最初に来たのは、boiたるもの女性の服を着るべきだというみんなの意見。オーケー、分かったよ、とふたりは言った。どうせ古い服はサイズが合わないし、新しいboi用の服の方が確かに自分たちの身体に合っているように思えるから。その次に来たのは、髪の毛だ。髪を長く伸ばすboiが多かった。グレッグ(茶髪の方)はそれに負け、髪を伸ばした。一方、トムはもっと「タチ」的なヘアスタイルを好んだ。そしてその後は、化粧だし、男だし、boiを女性と同一化させることがやってきた。
まあ、確かに、これらの文化的変化はすべて、少なくとも意味がないわけではない。しかし、boiと公衆道徳に関する新しい法律には我慢がならない(boiがトップレスでいると高額の罰金が科せられるようになったのだ)。
大半のboiはそれに抵抗せず、ビーチでもビキニのトップをつけ始めた。けど、トムとグレッグは抵抗することにした。どうして胸を隠さなければいけないのだ? 女性のような乳房はないのに。それに、今までビーチではいつもシャツなしで過ごしてきたのに。
言うまでもなく、ふたりの若いboiは人の注意を惹いた。そして予想された通り、ふたりは逮捕された。法廷に呼びだされる時、ふたりにはどんな判決が下されるだろうか? それは誰も知らない。時が来れば分かるだろう。だがトムとグレッグはすべきことをしてきたのだ。自分たちの権利を守るために戦ってきたのだ。
*****
デボンは壁の穴から覗きこみ、直ちに勃起した。boiのロッカールームである。ほとんどすべての若い男たちが夢に見る光景と言ってよい。素っ裸のboiたち、その小さな体、キュートで可愛いペニス、そしてぷっくり膨らんだ乳首。それがいっぱいいる。
boiたちの中には、グレート・チェンジの前からデボンが知っている人もいた。もちろん、あの事件の前とはすっかり容姿が変わってしまってはいるが。一緒にフットボールをした仲間もいる。
だが時代は変わったのだ。
「デボン! そこから離れなさい!」
デボンは背後に厳しい声を聞いた。恥ずかしながら振り向くと、そこにはフットボールのコーチが立っていた。
おやおや、デボンは大変なことになりそうだ。
*****
デリックはどんなことになりそうか、分かっていた。彼もウブな10代の若者ではないのである。大人のboiであり、世の中がどんなふうになっているかも知っていた。ではあるものの、彼はラマールにボートへ誘われた時、断ることができなかった。ラマールが既婚者であることや、デリックが彼の秘書であることなど、どうでもよかった。彼は孤独を感じていた。それが問題だった。確かにほぼ毎日のようにデリックは男たちから誘いを受けていたが、それとこれとは違う。彼らではデリックが必要としていたこと、求めていたことを与えてくれることはできなかったのである。彼はラマールが欲しかったのだ。
であるので、土曜日に海に行かないかとラマールに誘われた時、デリックは歓喜した。彼は、それまでそれとなくラマールに好意を示してきたのだが、それがとうとう実を結ぶときが来たのだ。ラマールがセックスのためだけに彼を誘ったことは、デリックも頭では分かっていた。ラマールが自分のために妻を捨てることなどあり得ないのは知っていた。だが、そんなことを知ってても、デリックは、ラマールと一緒に暮らせたらどんなだろうと想像してしまうのである。
実際、その日は、まさにデリックが予想した通りの一日になった。ラマールの大きなペニスが彼のアヌスに深々と挿しこまれ、彼が喜び狂う一日。ふたりとも、それが何であるか知っていた。ふたりとも相手が何を求めているか知っていた。性欲の解放である。
そののち、ボートが港に戻った後、ラマールは車でデリックを家に送った。家に帰ったデリックは、自分があの常套句そのものになっていることを悟ったー「上司が好きになってしまった秘書」。彼は理性を捨て、代わりにもう一つのものにしがみついた。希望である。いつの日か、ラマールがこの日の気持ちになってくれますように。いつの日か、また一緒になれますように……。