___________________________
「マープ・ソー・サール…[Mahp sooh sahl...:まあ、これは大変]」
アンジェラは、彼女が出て行った時とまったく同じ姿勢でノボルがいるのを見て、こんなことではいけないと思った。
ノボルはアンジェラの声を聞いて、振り向いた。
「ナンダ[Nanda]?」 窓の外を見て、すでに暗くなっているのに気づいた。「私は一日中、眠っていたのか?」
「うん、うん」とアンジェラはそっけなく頷いた。
「そんなこと、あり得るんだろうか?」
アンジェラはノボルに水が入ったグラスを渡し、唇を歪め、頭をちょっと傾けた。
「いいですか? ナガモリさん? レム睡眠が記憶の固定に重要であるものの、実際の疲労回復のための睡眠は、睡眠サイクルの第二段階で起きるのです。これは充分に理解されている事実です。あなたはかなり多くの時間、夢を見ていたのでしょう。そのため、目が覚めた時、充分休んだと感じられるだけの睡眠を、実際には、得ていなかったということなのです」 とアンジェラは医師の言うような口調で説明した。
「ソウカ[So-ka]」 とノボルは呟いた。
アンジェラは指を鼻の下で振って、ノボルをからかった。「さあさあ、ちょっと臭いわよ。シャワーを浴びてきて。私は夕食の食べ物を注文するから。その後で、約束してあった話しをしてちょうだい」
「あなたが何かをしようと決めたら、あなたにいくら言っても無駄なのかなあ?」 とノボルは怪訝そうな顔で訊いた。
「当然よ!」 とアンジェラは明るい声で言った。「さあ、さあ、早く!」
ノボルがシャワーを浴びて出てくると、アンジェラはすでにテーブルの用意を済ませていた。
「イタリアンがお好きならいいけど」 と彼女は笑った。
ノボルは空腹になっていたと気がつき、早速、椅子に座ってパスタをがつがつと食べ始めた。
「うわっ、その調子! どんどん食べて」 とアンジェラは目を丸くして言った。
「ミ・ヤン[Mi yan:ごめん]。ベ・ゴープ・パー[Beh goph pah:お腹がすいてるので]」と食べながらもノボルは言った。
「アハハ、見れば分かるわ。でも、それが、これからの話し合いの良い前奏になるわ。さあ、包み隠さず白状して。どうしてあなたは韓国語を話せるの?」
だが、急にノボルが愁いを帯びた顔に変わり、うなだれ、アンジェラは驚いた。
「どういうこと?」
ノボルはうつむいたまま、小さな声で答えた。
「同じことを私に訊いた人がいたことを思い出したよ」
そしてノボルは顔をあげ、アンジェラを見つめた。
「李舜臣総督のことについて知っているかな?」
「私に訊いてるの?」とアンジェラは鼻で笑った。「李舜臣は私の二大ヒーローのひとりなの。いちばんはオプティマス・プライム(
参考)だけど。言うまでもなく、李舜臣は韓国史上、最も偉大な歴史上の人物よ。私の見解ではね」
彼女が話す間、ノボルは何も言わず彼女を見つめるだけだった。それを見て、アンジェラはノボルが何を言おうとしているのかを察し、驚いた。
「李舜臣があなたにその質問を?!」
「その通り」 その時ほど真剣なノボルの顔をアンジェラは見たことがなかった。
「あの李舜臣総督に会ったなんて…」 アンジェラは畏怖に満ちた声で呟いた。
「たった2年間だけでも、友人と呼べる間柄になれたことは幸運だった」 とノボルは思い出しながら悲しそうに微笑んだ。「彼は並はずれた男だった」