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その夜、3人はさらにセックスを繰り返した。だがビリーにとってはすべて夢の中のような感じがした。朝になり、ジョンはすでにいなくなっていた。
ビリーもメアリも、起きた後、服を着ることもせず、裸で家の中を動き回った。ビリーは自分の妻より自分の方がいい身体をしていると気づき、内心、自慢に思った。
キッチンでちょっと気まずい沈黙があった時、メアリが声をかけた。「で………楽しかったわよね?」
ビリーは頬を赤らめ、恥ずかしそうに微笑んだ。「ええ…」
ふたりともそれ以外は何も言わなかった。
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それから2ヶ月ほどが経った。その間に、ふたりは同じようなデートを何度も行った。議会は、基本的に白人のboiと女性を同等扱いにする法律を可決した。例えば、boiと女性は、学校での体育の時間は同じクラスに属すること、共に男性と結婚することができること、そして共にわいせつ物陳列罪に関しては同じ扱いを受けること(乳首の露出禁止)などが含まれている。
そして、多くのboiにとって生活が落ち着きを見せ始めていた。彼らの性的欲望はかなり亢進していたのだが、このころになると少し衰え始め、いろいろなことが鎮まり始めていた。しかしながら、離婚訴訟が多発し、法廷が麻痺寸前になったことで、それに対処するため、白人boiと女性の婚姻はすべていったん無効とする措置が宣言された。
ビリーに関しては、新しい人生を極めてエンジョイしていた。基本的に、彼とメアリはレズビアンの恋人同士となっている。とは言え、毎週、3回か4回はふたりとも大きな黒ペニスを楽しんでいる。ふたりがひとりの男性を共有することは滅多になく、たいていは、同時に男性をふたり家に連れ帰って、互いに並んで横になり、セックスされるというのが普通だ。
ビリーとメアリが、今ほど親しい状態になったことはこれまでない。服のセンスから性交時に取る体位に至るまで、ほとんどすべてをあけすけに語り合う仲になっている。
ただ、ビリーの解雇手当が底をつき、おカネが乏しくなっていた。
そんなある日、メアリがビリーに訊いた。
「スミスさんが、仕事が欲しかったら、また来なさいと言ったと、言ってなかった? 別に、あそこで働きたくないのなら、それはそれでいいんだけど、でも仕事は必要だわ」
「いつでも裸になってもいいわよ」 とビリーは答えた。
「あなたたち、ほんとにエッチなんだから。自分たちのコントロールができないみたいね」 とメアリは明るく笑った。
「コントロールしたくなったら、いつでもコントロールできるわよ!」とビリーは毅然とした口調で言ったが、もちろんちょっと笑みを浮かべてではあった。
「そうよねぇ、あなたならできるわよねぇ…。うふふ」 と皮肉っぽい口調。
「んっ、もう! いいわよ、スミスさんに会うから」 とビリーは降参した。
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そんなわけでビリーは、再びクラレンス・スミス氏の前に座っていた。今回は、タイトなミニ・スカート、ジャケット、そして胸元が開いたブラウスの姿だ。セクシーでゴージャスないでたちだし、ビリーもそれを自覚している。
「ああ、いま空きがあるか分からないんだよ、ビリー。今は仕事を探しているboiが多いんだ。いま空きがあるかもしれないのは秘書の仕事だけなんだがね」 とスミス氏は言った。
「それでパーフェクトです!」 とビリーは最高の無垢でセクシーな顔を作って、返事した。
「で、どんなことができて、君は自分が秘書の仕事に向いていると思うのかな?」
「あら、たくさんありますわ」
そう言ってビリーは立ち上がり、スミス氏の元に近づき、彼の足元にひざまずいた。ゆっくりとズボンのチャックを降ろし、中からペニスを取りだした。大きくはなかったが、ビリーは、そもそもどんなペニスでも大好きなのである。
ビリーは美味しそうに先端を舐め、焦らした。彼はすでにエキスパートになっていたし、その効果は明らかだった。彼はスミス氏に、彼が味わったうちで最高のフェラをしてあげたのだった。
ビリーは口紅を塗り直しながら言った。「じゃあ、明日9時ですね?」
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「まさか、本当に?」 とメアリが言った。
「いいえ、本当よ。そうしたらスミスさんは、口ごもりながら、『あ、ああ。もちろん』って言ってたわ。で、私はお尻をしっかり見せつけながらオフィスを出たわけ」
「じゃあ、あなた、秘書になるの? 給料はどれくらい?」
「分からない。まあ、スミスさんと一緒に何か捻りだすつもりでいるけど」 とビリーは悪戯そうな笑みを浮かべた。
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ビリーは、あっという間に、その可愛い手でスミス氏を虜にしてしまった。今では会社で最も高額の給与を得る秘書になっているし、スミス氏は完全に彼にぞっこんになっている。
ビリーが秘書の仕事を初めて2ヶ月後、スミス氏は彼を公式的にデートに誘った。その3ヶ月後、クラレンスはビリーに結婚を申し込んだ。ビリーはイエスと答えた。
結婚式の日、ビリーは純白のランジェリを身につけ、その上に白の美しいウェディングドレスを着た。そして顔には手の込んだヴェール。メアリは花嫁の付き添いである。
「あなた、幸せ?」 とメアリが訊いた。
ビリーはためらわず答えた。「ええ、とても」
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(後にこのように呼ばれるようになったのだが)グレート・チェンジの何年か後、オマール・ベルは政府のエージェントに殺害され、そのすぐ後に、治療法が発見された。しかしながら、すでに新しい生活に慣れ、元に戻ることを拒否するboiの数は多数に登った。さらに、治療を受けた者たちのかなりの人が、治療を受けたことを後悔した。新しく男性に戻っても、それに順応できなかったからである。
しかし、人生は続いて行く。人間には回復力があり、基本的にどんなことにも順応できるものだ。ジェンダーが3つに分かれた世界にすら順応できるのである。
ベル博士の怒りが、彼が想像すらできなかった世界をもたらす結果になったことは皮肉である。確かに、今だに憎しみは残っているし、偏狭な見方も残っている。だが、急激な社会変化は、人々に豊かな感情の増大を誘発し、すべての人種が相互に折り合いをつけるような社会に変わったのだった。
もっとも、偏狭というものが完全に消え去ったとは思わないでほしい。いや、そんなことは、いかなることを持ってしても、現実には不可能である。それを多くのboiたちが知った。boiたちは、仕事をする能力が縮小したわけでもないにも関わらず、以前のような仕事をする資格があるとはみなされなかったのである。それは、グレート・チェンジの直後、boiたちが当初、異常な性欲を感じた状態になったことがもたらしたステレオタイプ的な見方によるものだった。彼らの性欲はすぐに鎮静化し、他の人と少しも変わらぬ程度になったのであるが、人の見方は、そのような変化がなかったかのように、いつまでも残り続けたのである。そして、boiたちは、それまでの少数人種たちがそうであったように、そのような見方の犠牲者となったのであった。
だが、先に述べたように、人間というものは回復力があり、順応してきたのである。
ベル博士がどのように追跡され、殺害されるに至ったか……その話しは、また別の機会にしよう。
おわり