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オマール・ベルの世界 (10) 

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シンディは僕の親友だった。もう何年も前から。女の友人がいる男ならたいていそうであるように、僕も友情以上のことを求めていた。ただ、僕は憶病すぎて、先に進めなかった。先に進むきっかけを失ってしまっていたと思っていた。僕は死ぬまでずっと彼女の「お友達」の状態のままなのだろうと思っていた。

そんな時、オマール・ベルがアレを放出した…あれが何であれ、僕は変わり始めた。僕はそもそも身体の大きい方ではなかった。165センチで体重も65キロくらい。だけど、たった半年で僕は157センチ、50キロになったのだった。そして僕の身体は男の身体でなくなったのは確かだった。腰は大きく膨らみ、ウエストは細く締まり、身体から体毛が消えてしまった。

でも、この身体の変化にはいいこともあった。シンディはいつも僕のそばにいて、サポートしてくれるようになったのだ。僕が変化を遂げていた時期ほど、僕と彼女が親密になったことはそれまで一度もなかった。

僕が変化し始めてから8か月後、シンディは僕に裸になってどれだけ変化したか見せてと言った。彼女は僕を言うとおりにさせるのに、あまり説得する必要はなかった。ただ一言、「裸になって見せてくれたら、私も裸になって見せてあげるから」と言うだけで充分だった。僕はすぐに裸になり、彼女もすぐに僕の後に続いた。

(少なくとも僕には完璧な身体に見えたのだが)彼女の完璧な身体を見ながら、僕はたったひとつのことしか考えられなかった……

どうして彼女を見ても僕は興奮しないのだろう? どうして僕のペニスは(確かに小さいんだけど)勃起しないのだろう? シンディは腕を回して僕の肩を抱き寄せ、僕も彼女のウエストに腕を回した。僕は彼女の豊かな乳房を見おろした。でも……何も起きない。ぴくりともしない。

言うまでもなく、このすぐ後、僕はぽろぽろ涙を流し始めた。シンディは懸命に僕を慰めてくれた。でも彼女は本当には分かっていない。僕はもはや男ではなくなっていたのだ。僕はboiになっていたのだ。boiは女性には惹かれないものなのだ(どんなに頑張っても)。

多分、これからもずっと僕たちは「ただのお友達」のままであり続けると思う。

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「みんな…どうしてそんな顔で僕を見てるの?」

「それってブラジャー?」

コリイは笑った。「もちろん違うよ。僕は女じゃないよ。これは乳首を刺激から守るものさ。放っておくと、薬を塗らなきゃならなくなるまで刺激を受けてしまうから」

「そうかなあ……どう見てもブラにしか見えないけど」

たいていの人は考えてもみないことだが、混血の男子にもオマール・ベルのウイルスの影響を受けた者が多数いた。彼らは、大半がアフリカ系アメリカ人であり、それゆえ他のboiよりも辛い目に会ったと言ってよい。

例えば、アイダホに住む混血のコリイ・ヘイスティングスは特に辛い目に会った。彼の通う高校では、(彼も含む)すべてのboiは女子用のロッカールームとトイレを使うよう義務付けていたが、彼はそれを拒み、男子用に設けられた施設を使い続けたのである。もちろん、これは少なからず問題を引き起こした。すなわち、彼がロッカールームでクラスメイトとセックスしているところを発見される事件が無数に起きたのである。

言うまでもなく、このことは高校の運動部のコーチたちをかなり落胆させた。特に、グレート・チェンジの前はコリイがアメフトのクォーターバックであったことゆえ、なおさらだった。

今、コリイはboiの権利を声高に主張する闘士になっており、高邁な政治的野心を持っている。

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お馴染みのカメラのシャッター音を聞きながら、サムは振り向いた。彼は写真を見る必要すらなかった。彼は、自分がいかにセクシーか知っているのである。そして彼はそれがとても嫌だった…。しかし、今の姿は変えられない。どんなに自己憐憫(あるいは自己溺愛)しても何も変わらない。

かつて、グレート・チェンジの前は、彼は非常に独断的だった。同性愛、ポルノ、乱交…すべて純朴な彼には不道徳的なことだった。サムは、その偏狭な道徳観は彼だけのものかもしれないことすら考えていなかった。彼は、自分自身の道徳観がみんなに当てはまらなくても、気にも止めなかった。そして、彼自身の個人的な信念に基づいてなされる基準に従って、あらゆる人を独断的に判断してきた。しかも、彼の判断は手厳しかった。自分の判断に合わない人を口汚く罵り、バカにしてきた。要するに、サムは最悪のタイプの人間だったのである…独断的で自分自身が道徳的に優れていると完璧に信じて疑わないタイプの人間。

だが、その時、彼は世界中の他の白人男性同様、変化を始めた。最初、彼は抵抗した。初めて男性と寝たのは、グレート・チェンジの後ほぼ4年近くになってからだった。そして、その経験があったすぐ後、彼は写真家と名乗る男にアプローチされたのだった。サムが、ヌードの写真を撮られるためにその男のスタジオに入るまで時間はかからなかった。男はサムは天性の才能があると言い、何百ドルか報酬を与えた。

それから2ヶ月ほどの間に、サムは週単位でその写真家のモデルを行うようになった。他の仕事の口は少なかったし、報酬も良かったから。サムは、撮られた写真は最後にはインターネットのどこかのポルノ・サイトに上げられることになるのを知っている。だがおカネが必要だった。サムは今だにこれは間違ったことと思っているが、boiはboiがしなければならないことを、しなければならないのである。

彼の道徳観はそのうち変わるだろうか? 変わらないかもしれないし、変わるかもしれない。それは時が経たねば分からない。

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新しい肉体。新しい服装。化粧。ハイヒール。グレート・チェンジはあらゆる白人男性の生活のあらゆる部分を変革することに他ならなかった。だが、中には、元の男性性にしがみつく者たちもいた。何か一つのことを変えるのを拒否することを通して、男性性にしがみつく者。もはや惹かれあうことがない妻と生活を共にし続けて、しがみつく者。さらには、boi用のブリーフ、すなわち男性用下着に似たデザインだがboiの身体にフィットする下着を着続けて、しがみつく者。そしてさらには、このパトリックのように、髪を伸ばすのを拒んでしがみつく者もいた。おかしなことである。否認というものは。四つん這いになり、アヌスに大きな黒いペニスを突きたてられていながらも、パトリックの少なくとも一部分は、今だに自分を男性を考えているのである。

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boiと女がひとりの男を共有。よくある光景だ。それで、このふたりの話しは? そんなの知りっこない。だけど、想像することはできる。もしかすると、ふたりはただの友達で、一緒にちょっとふざけてるだけかも。あるいは、ふたりは(グレート・チェンジの前は)恋人同士で、事実上、ふたりの間に愛の感情はなくなった後も関係は継続しようと決めたのかも。あるいは、そのいずれでもないかも。だが、boi(右側)がこれからみっちりしっかりセックスされる気でいることだけは否定できない。

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ロニーはバスルームのドアが開く音を聞き、振り向いた。

「そんなところに私のバイブがあったわけね」 と彼の妻メアリの声が聞こえた。

「メアリ……」 と彼は言いかけたが、すぐに中断させられた。

「いいのよ、最後までやってて。boiはboiなりの欲求があるのは知ってるから。でも、今夜、ふたりで出かけて、あなたが本物を経験してみるというのはどうかしら?」 とメアリはドアを閉めた。

その数秒後、ロニーはさっきしていたことを再開した。だが、今回は、勃起した大きな黒人男たちの姿が頭の中、踊っていた。


[2014/07/08] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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