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ビンセントとチャックが新しい服を買ってくると、他の寮生たちも観念して、同じ店に買いに行った。ビンセントたちのと似たものを買って来た者もいたが、中には、丈の短いショートパンツとお腹が出るタンクトップを買って来た者たちもいた。ひとりは、レースのソングを買って来た者もいた。彼は、どうしてかと訊かれると、顔を赤らめて、「だって、似合ってると思ったんだ」と言った。
それからまた2週間が過ぎた。騒ぎは沈静化し、毎日、ほぼ平凡な日常と言える状態になっていた。寮生たちは新しい服を着て気分よく暮らし、元気を取り戻していた。ただ、ビンセントは、週がすぎるごとに、みんなの振舞いがどんどん女性化していることに気づいていた。
姿勢からそれが始まった。立っている時、少し背中を反らせ、胸を突き出す姿勢を取る者が増えてきた。次が手の動かしかた。彼らがほぼ完ぺきに女性的な仕草や姿勢をするようになるまで、時間はかからなかった。
ビンセントに関して言えば、性的なことについて新しい傾向が出てきていることに気づき始めていた。なぜか、シャツを着ていない男性でいっぱいの夢を見るようになっていた。何か差し迫った危険に襲われ、そこを男性が助けてくれる夢や、ただ、男性に抱きしめられている夢を見る。何度も繰り返し見る夢があり、その中では彼は黒人男性と愛し合っているのである。
だが、それは単に夢の話しではなかった。
ある時、クラスで授業を受けていた時だった。ある(ネイティブ・アメリカンの)教授が教えている間、ビンセントはぼんやりある考え事をしていた。その時、突然、彼の小さなペニスが勃起したのである。別に、そのことを考えようと思って考えていたわけではない。ただ何となく考えていただけ。だが、それを考えていたら興奮したのは明らかだった。それは、その教授のペニスの大きさはどのくらいだろう、というぼんやりとした疑問だった。サイズの次は、手触り。触ったら、どんな感じがするのだろう? そして最後に、味。口に含んだらどんな味がするんだろう? 彼が勃起したのはその時だった。
その思考を続けたいと思う気持ちがないわけではなかったが、心の中の大半は「やめろ!」と叫んでいた。ビンセントは小学校3年の時の80歳近い先生のことを思い出して、頭からその考えを振り払った。勃起が収まると、授業中ではあったが、ビンセントは持ち物をまとめ、教室から急ぎ足で出た。
教室から飛び出した時、ビンセントはひとりの男と衝突してしまった。ふたりとも持っていた本を床にばら撒き、ビンセントは衝撃で床に尻もちをついた。
「あ、マズイ。ゴメン」 とその男は言った。彼は特に身体が大きいというわけではない。平均的な身体。だがハンサムな顔をしていた。彼はビンセントに黒い手を差し伸べ、言った。
「本当に、済まない」
ビンセントはその手を取り、男は彼を軽々と引っぱり上げた。
「あ、いや。僕が悪いんです。前を見ないで走ってたから」
ビンセントはかがんで本を拾った。男もそれを手伝った。そして握手を求めて手を出した。
「俺はグレッグだ」
「ビンセント」と彼は応え、ふたりは握手した。ビンセントは自分の手がグレッグの手に包まれるのを見た。
「ちょっと、罪滅ぼしをさせてくれる? ランチはどう?」 とグレッグが誘った。
ビンセントはちょっとひるんだ。何と言っていいか分からない。彼は本を胸の前に抱くようにして、「あ、行かなくちゃいけないから」と言い、逃げるようにその場を離れた。
寮へと歩きながら、ビンセントの心はいろんなことでぐちゃぐちゃになっていた。立った今、ある男とぶつかってしまった。彼には女の子のように扱われた。いろんなことを思い、寮に着いたのはあっという間のような気がした。彼は素早く部屋に入り、ドアを閉め、パソコンで検索を始めた。
「男とboi」と打ち込んだ。
検索結果の上位いくつかは、ポルノの動画だった。ビンセントは興味を覚え、ひとつをクリックした。その動画では白人のboiが後背位で痩せた背の高い黒人に突かれていた。ビンセントの小さなペニスは、直ちに勃起した。動画の白人boiは大声でヨガリ狂うタイプだった。
次の動画は4人プレーの動画だった。白人のboiと白人女性がふたりの黒人男性に奉仕する動画。タイトルは「ヤラれまくった妻と夫」。ビンセントは、boiが背中の腰のあたりに蝶のタトゥ―をしているのを見た。
彼はブラウザの「戻る」ボタンを押し、検索結果に目を通した。2分ほど、山ほどあるポルノをかき分け進み、ようやくその週のニューヨーク・タイムズの記事を見つけた。それは、夫が男性に惹かれるようになった妻の体験記だった。
始まりは小さかったと彼女は言う。通常の仕方ではセックスができなくなった夫婦は、創造力を働かせ、ストラップ・オンを買った。最初は交替して行った。交互に男性役になって行為を行うという方法。だが、すぐにそのバランス関係は崩れだし、夫の方が受け手になることが多くなったという。
しばらく経つと、妻は欲求不満を感じるようになり、そこで今度は、ふたりとも同時に挿入されるよう、双頭ディルドを買った。これでふたりとも幸せになった。この状態がさらに何週間か続いたのだが、ある時、妻は夫が男とベッドに入っているのを見つけたのだった。
しかし、妻は嫉妬する代わりに、自分もふたりに加わったという。それからこの夫婦は街に男を引っかけに出るようになった。しかし、最初は新鮮だったものの、妻は次第に飽き始め、やがて夫と一緒に街に出るのをやめてしまった。
一方の夫はやめなかった。ほぼ毎晩、彼は家に戻らなくなった。誰か他の男のところに泊まり歩くようになっていた。家に帰ってくる時は、たいてい、男友だちを連れてきた。そんな夜は、夫の感極まったヨガリ声に、妻は何度も目を覚ました。そしてその2週間後、彼女は離婚届にサインしたのだった。
その記事は、こう言って締めくくっていた。この話は多少極端なところもあるが、典型的でないとは言い切れないのだと。もっと言えば、たいていのboiは男性の性的パートナーを求めて活発に行動していると。(白人boiたちと共に)文化が変わるにつれて、ますますこのような事例は増えてきていると。男性とboiのカップルは、男性と女性のカップルと同じく自然な組み合わせであると考えられてきていると。
ビンセントはその記事をもう一度読み直した。その通りだと思った。すべて、これで合点がつく。あの夢も、女性に性的に惹かれなくなってきていることも、男性の方に惹かれるようになってることも。すべて自然なことなのだ。どのboiも同じ経験をしているんだ。
彼は安心して溜息を漏らした。そして、また、boiと妻がふたりの黒人に奉仕する動画に戻り、小さなペニスを擦り始めた。