ケリーにとって、次の週はあっという間にやってきた。式の準備の最後の仕上げに大忙しだった。ケリーは親友のロリイが来て準備の手伝いをしてくれて、この上なく嬉しかった。とはいえ、彼女はロリイが時々、気持ちがここにないような様子をしていたことを心配していた。当地に着いてからずっと上の空なのだ。もしかしてロリイはフィアンセと喧嘩でもしたのかしら?
ケリーは、ロリイがあれこれ心配してくれていることを心から感謝していた。アカプルコで女性が誘拐されて強姦されたという記事を読んだらしく、本当に気をつけてねと真顔で心配してくれた。そんなロリイにケリーは明るく答え、彼女を安心させた。
「心配しないで、ロリイ! 大丈夫よ。ハネムーンの間はずっと、私の隣にピカピカの鎧を着た騎士がいてくれるんだから。それにね、私、この2ヶ月ほどブライアンに禁欲をさせてきたの。だから、私、ハネムーンの間ずっと、ホテルの部屋から出してもらえないかもしれないわ!」
ケリーには結婚式当日は大忙しで、あっという間に終わってしまった。傍らにはロリイがずっと付き添ってくれて、気持ちを落ち着かせることができ、心から感謝した。すべてが問題なく計画通りに進行した。オライリー神父がブライアンとケリーに「汝らを夫と妻とする」と宣言した時、ケリーは喜びに顔を輝かせた。誰もが、純白のウエディングドレスに身を包んだ花嫁のケリーを賞賛し、彼女の美しさと清純さについて惜しみなく言葉を投げかけた。
続く披露宴、最初のダンスはケリーとブライアンが行った。ケリーは素敵な夫の腕に包まれながら、これ以上の幸せはありえないと思った。披露宴が終わり、ケリーはハンサムな新郎に抱きかかえられながら、ハネムーンのスイート・ルームのドアをすぎた。部屋に入るとすぐにふたりは互いの服を脱がしあい、生れたままの姿になり、キングサイズのベッドの上、情熱的に愛しあった。その夜、3回、ケリーは愛する身体を広げて愛する夫を迎え入れ、そして長くセクシーな脚を絡めて彼を抱きしめたのだった。
次の日の早朝、愛するふたりは手に手を取って、新婚旅行の目的地であるアカプルコ行きの飛行機に乗った。そこに着くまで数時間かかったが、ふたりにはそんな時間は関係ない。フライトの間ずっと、ふたりはキスをし、抱き合っていたから。
ホテルに着くのはちょうど正午を回った時間になる予定だったので、ブライアンは、昼食はルームサービスを頼んで、部屋に送ってもらおうと提案した。
「ん、もうー! ダメよ! 旅行会社に送ってもらったパンフレットで見た素敵なレストランに行ってみたいと思っていたんだから! あなたが何を考えてるか知ってるわ …………… 私が服を脱いだらすぐに………でしょう?」 とケリーはからかった。
ホテルの前、タクシーを降りるケリー。彼女の長くセクシーな脚を、ホテルのラウンジに座る男が見つめていた。明るいブルーのスカート、白いブラウス、そしてヒール高7センチの白いハイヒールに身を包んだブロンド美女。いつ来るかと気を揉んで待っていたアーチーは、ケリーの姿を見て、一気に興奮を高めた。
彼は2日前からアカプルコに来て、ホテルのセキュリティーをチェックし、これから行う犯罪に必要な道具類を買い集めていた。アカプルコに来るのに大金を使ってしまったが、そのカネは取り戻せると踏んでいる。あの弱っちそうな白人野郎からふんだくれば済む話しだ。もちろん、本当の目当ては、別のモノだがな!
アーチーは先に当地に来ていたので、ケリーたちのスイートルームが何号室か正確に調べがついていたし、苦労はしたが、必要となるアイテムも揃えておくことができていた。そのアイテムにはトレーとシャンパングラス2個、および、ホテルの従業員の制服が含まれる。さらに前夜の内に、シャンパンも1本買っていた。これで必要となるモノのすべてが揃った。これを使って、ハネムーンのカップルにシャンパンを届けるという大芝居を打つことができる。そう、アーチーはケリーとブライアンにシャンパンを届けるつもりでいる。だが、そのシャンパンは新婚夫婦を祝って、乾杯し、自分で飲むつもりのシャンパンだった。
ホテルのボーイに案内され部屋に入ったケリーは、愛する夫の身体に両腕を巻きつけ、抱き寄せて、情熱的なキスをした。長々と熱のこもったキスをした後、ケリーが言った。
「ランチを食べに出る前に、ちょっとバスルームを使わせて! さっぱりしてから出かけたいの!」
「いいよ。でも急いで ……………… このホテルのベッドがどのくらいフカフカか試したくてうずうずしてるんだ!」 とブライアンは笑いながら答えた。
ちょうどその時、ドアをノックする音がした。そして男性の声が聞こえた。
「ハネムーンのおふたりにシャンパンをお持ちしました!」
「あなたが出てくれる?」 と、ケリーはバスルームに入りながら夫に頼んだ。
ケリーは、バスルームのドアを閉めた。それに合わせて、ブライアンがドアを開け、シャンパンを携えたボーイを中に入れる音が聞こえた。ケリーは、夫のためにできるだけ魅力的に見せようと、シルクのようなブロンドの髪をブラッシングし始めた。
だが、そんなケリーは気づいていなかった。そのシャンパンのボトルは別の目的に使われたのである。ホテルのボーイを装った邪悪な男は、そのボトルを使って彼女の夫を殴り、気を失わせたのである。
ケリーは鏡を覗きこみ、髪を美しく整えた後、バスルームのドアを開け、呼びかけた。
「準備完了よ! ランチに行きま ………………!!! えっ? ど、どうして? ……………… ああ …………… ブライアン!」
そこには椅子に縛り付けられたブライアンの姿があった。口はガムテープで塞がれ、苦痛からか、頭をぐらぐら揺らしていた。
そして、その隣にはボーイの制服を着た黒人が立っていてニヤニヤ笑っていた。手に大きな狩猟用のナイフを持ち、得意げに振っている。ナイフの刃が光を反射してキラキラ光っていた。
衝撃に立ちつくしたまま、ケリーは、そのナイフがブライアンの首横に当てられるのを見た。信じられない光景をまの当たりにし、極度の恐ろしさに心臓を高鳴った。
その時、ケリーは、ブライアンが何度もまばたきするのを見た。意識を取り戻し始め、目の焦点を合わせようとしてるのだろう。そして、彼女は、ブライアンが意識が戻ってくるのに合わせて、状況を理解し、目に恐怖の色を浮かべるのを見た。首元に突きつけられている狩猟用のナイフを見つめている。
「お、お願いです ………………… 彼を傷つけないで! お願い …………… お、お金はあります ………………… お金ならあげますから ………………… お願いぃぃぃっ!」
「おいおい ……………… お前の可愛い奥さん、ずいぶん親切だな ………………… お前を傷つけてほしくねえ、だってよ! 坊ちゃん! 苦労して貯めたカネを俺にくれるってよ ………… お前を助けるためにな! ああ、確かに、カネは全部いただくぜ ………… だが、お前も分かるだろ? 俺は、お前たちのカネよりずっといいモノをもらいにここに来たんだよ! …………… お前なら、分かるよな!」
ケリーはあまりに世間知らずだったのかもしれない。この邪悪な乱入者が何のことを言っているのか、まったく見当がつかなかった。この男は何を求めているのか、ケリーは当惑した顔になった。
だが、そうしてる間にも、ナイフの鋭い刃がブライアンの首に強く押し当てられている。夫のことを思い、恐怖に囚われているケリーの方に男が顔を向けた。そして意味ありげに彼女の身体をじろじろ見た。ブライアンも目に涙を浮かべながらケリーの顔を見ている。そのふたりの視線を見て、ケリーにもようやく男が何を要求しているのか飲みこめたのだった。
………………… 私のこと!
ケリーは、恐怖に、見ても分かるほど激しく身体を震わせた。どうしてよいか分からなかった …………… 今すぐ部屋から走り出て、自分を守りたい …………… でも、そうしたら、ブライアンはどうなるの?