2ntブログ



裏切り 第10章 (7) 


腰を降ろしてもいい? めまいがしてきて……

私たちのメイク用のテーブルの下に大きなトランクが3つ置いてあった。それぞれに、ポールの3人のモデルの名前が書いてあった。ダイアナのはすでに開けられていて、彼女の足元に置いていた。アンジーと私は、それぞれ自分のトランクを運び、最初の衣装替えの準備を始めた。

ショーは5時に始まり、90分ほど続くことになっていた。私たち3人に加え、他のベンダーからのモデルも加わってショーを行う。楽屋にはベンダーもモデルもたくさんいて人でごった返していた。そんな中、私たちは衣装替えのために楽屋を駆けまわる。しかも衣装替えは4回も。

ダイアナは、ショーのフィナーレを飾る特別のソロのショーをすることになっていた。次のミスター・ゲイの王座を決めるコンペは7時から開始する。

私はステージの端のカーテン越しに客席を覗いた。ジェフとスーザンが客席に突き出た細長いステージのそばに座っていた。ふたりは、モデルやモデルの着ている衣装や、それを作ったベンダーを紹介する特別ゲストの司会となっていた。

ジェフたちが出席することで、必ずマスメディアでの報道がなされる。加えて、ジェフのチームの試合を放送している地元の独立系テレビ局からもカメラマンが来ていた。本当に、彼らがこのショーを選んで、私を破滅に追いやるつもりでいるなら、新聞と10時のニュース番組での報道を狙うだろう。シカゴ中の人が目にするようにと。

デューバル通りのファット・チューズデイ(参考)で、肌を露出したビキニとハイヒールのサンダルだけの格好でピニャ・コラーダ(参考)を啜ってるというのも、ボートをチャーターして遊ぶのと同じくらい楽しいと思うけど、どう?

なのに、今の状況。バックステージに立って、最初のモデルが喝采を浴びてるのを聞いて、気が重くなった。お腹のあたりに蝶が飛んでるようなゾワゾワした感じだったけど、その蝶が今やハゲタカに変身して、翼を広げ、私のお腹の中から飛び出そうとしてる。同時に私の身体が引き裂かれそう…。

とうとう出番の合図が飛んできた。

合図を受けて、ステージに飛び出した。白い子牛革のコルセット。首輪。黒エナメルの飾りがついた肘までの長さの手袋。マッチした白い子牛革のレースアップ式のブーツ。このブーツは太腿までの長さで、黒エナメルの渦巻き模様が施されている。そしてヒールは、15センチのヒール高のスティレット。

ファッションショーでの歩き方や仕草についてはダイアナにコーチを受けていて、みっちり覚えこんだつもり。これでもダメだと言ってみなさい。ちんぽを根元から食いちぎってやるから!

アンジーは私のすぐ後ろ。紫の子牛革のコルセットのミニ・ドレスと、それにマッチしたプラットフォーム(参考)のサンダル。

そのアンジーの後ろにはダイアナ。私と同じような赤いエナメルのコルセットの組み合わせで、太腿までのブーツでコーディネイトした衣装。

私がステージに出た時には、前のモデルたちへの拍手が残っていたけど、私たち3人が出て1秒か、2秒したころには、音は大きなスピーカーからズンズンと響き流れる音楽だけになっていた。

たった数秒も何時間のように感じられる。スーザンは、この前の週末に会ったことで、私の顔を思い出したようだった。また私の顔を見て、嬉しそうな顔とはとても言えない顔をしていた。その他は何も表情の変化は読みとれなかったけれど、だけど、スーザンについては、何を考えているか知れたものではない……。それより、観客が皆、シーンと静まり返っていることの方が、正直、辛かった。

緊急事態! 緊急事態! 救助運搬車出動! レベルを300まで上げて! 気つけ薬1CC必要! 注入して!

その時、観客の顔を見た。

目をまん丸にして、口をあんぐり開けた人を、一か所でこんなに集まっているのを見たことがない。拍手が沸き起こった。みるみる拍手が大きくなって、轟音に近くなっていく。爆音で鳴らしている音楽も掻き消されそうになるくらい。巨大な中央のシャンデリアが振動でカチャカチャなっていた。私はすでにステージ方向へターンをしていて、バックステージに向かう途上、中央へと向かうダイアナとすれ違った。彼女は私にウインクをした。

そうよ、いくわよ! その心意気!

次々に着替えて、ステージに出るたび、拍手が速く、そして大きくなっていった。それによって、私もどんどん自信がついてきた。

うわあ、もし先物商品の仕事がうまくいかなくなったら、こっちで……

3回目から4回目の衣装替えの時、何か熱を帯びた言い争いの声を聞いた。ステージの奥の袖あたりから聞こえてくる。私は裏側から忍び出て、そのふたつの怒り声の持ち主に近づいた。ひとつは男性の声、もうひとつは女性の声。

「何だよ! お前、あいつをここに連れてくると言ったじゃねえか!」 と男が怒って言う。「いいか、お前。もし俺をだましたら、お前に生れてこなければよかったと思わせるからな! 男だろうが女だろうが!」

「彼ならここにいるわよ」 と女が吐き捨てるように言った。「フィナーレまで、彼を怖がらせておくつもりなの。彼は全然、疑っていないわ。私を信じて。誰も忘れないでしょうよ。あなたのもくろんだ通りにになるから」

「本当か? じゃあ、あいつはどこにいるんだ? 教えろよ! さもないと……」

私は急いで角を曲がり、ダイアナの腕を掴んだ。ジェフは空になったグラスを掲げて、ダイアナの頭に振り落とそうとしている。それは重いので、振り落とされたら、ダイアナの頭蓋骨を打ち砕くことになってしまう。もしそんなことになったら……

「ダイアナ、次のセットの着替えをしなきゃいけないわ! 急いで、今すぐ! あら、ジェフ! また会えてうれしいわ」

「リサ! 待てよ! 話しがあるんだ…」 とジェフは大声で言った。

「ショーの後で会いましょう? いいでしょ?」 と私は猫なで声で言った。「今は、ダメなの。ここにいる私のお友達の衣装替えのお手伝いをしなくちゃいけないから! じゃあ、またね!」


[2014/09/17] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する