「その時点で、お前は兄に恋愛感情を持っていたのか?」
「いいえ。さっき言ったように、私はソング・ビキニを着ていたから、ただ恥ずかしかっただけ。恥ずかしくて、立ち上がることもできなかったわ」 とミセス・グラフはレストランの中を見回した。
「……1時間くらい、ふたりで座っておしゃべりをしていた。そのうち、彼は友だちと会う約束があるので行かなくちゃと言ったの。でも、夜にプールサイドでお酒でもどうかと私を誘ったわ」 と彼女は俺の手を握り、俺の目を見つめた。
「で、行ったのか?」 俺たちのテーブルのそばを客たちが通り過ぎ、俺は小さな声で訊いた。
「行きたくなかったわ。夫は体調が悪くて、私はそばにいてお世話をしてあげたかったから。でもジェイコブはとてもしつこくて、うるさいくらいに何度も誘うので、しかたなく、日が沈んだ後、プールサイドのバーで会う約束をしたの。一緒に泳げるよう、ビキニを着てくるように言ってたわ」 とミセス・グラフは目の前のコーヒーカップを見つめながら、小さな声で言った。
「ビキニを着て行ったのか?」
「夫はお腹の調子が悪かったし、私も夫のそばにいたかったんだけど、夫は出かけて楽しんできなさいと言ったの。私は行くべきではないと知ってたけど、あなたのお兄さんと会うことに、どこかワクワクしていたところがあったのも本当……。そして日が沈んで、暗くなった頃には主人はすでに眠っていたわ。私は着替えをして、家から持ってきたワンピースの水着を着ることにしたの。でも、着替えた後、鏡を見て、ちょっと何か感じたのよ……」 とミセス・グラフは襟元を指で擦りながら、小さな声で言った。
「じゃあ、ワンピースの水着にしたわけか?」 俺は、微笑みながら、うつむいてコーヒーカップを見つめるミセス・グラフに訊いた。
ミセス・グラフは頭を左右に振った。涙がひとしずく目からこぼれ、頬を伝い流れ、テーブルに落ちた。もう一方の目からも涙がこぼれるのを見て、俺はナプキンを取って彼女の頬を拭った。そして手を握って、溜息をついた。
「構わないんだよ」 とぎゅっと手を握り、優しく言った。
「鏡を見ながら、どうしてああ思ったのか、自分でも分からないの。あの時、まるで、自分が自分でなくなったみたい。ワンピースを脱いで、ソングのビキニを取ったわ。細いストライプでハイレグのソング。それからトップもつけた。胸が大きく盛り上がって見えた。それをつけたら、鏡の中、私の目の前で、自分の乳首がどんどん固くなっていくのが見えたの。興奮してからだが震えていた」 と、小さな、単調な声で言う。
「俺の兄と会うのを思って、興奮していたということか?」 とコーヒーを啜り、訊いた。
「ええ。どうしてかは分からない。夫が1メートルも離れていないところに寝ているというのに。まるで、何かに取り憑かれた感じだった。クローゼットに行って、白いブラウスを着たけど、ボタンは締めなかった。足元に眼を落して、セクシーなハイヒールのサンダルを見ながら、刻一刻と自分が興奮してくるのを感じていたの。そのサンダルに足を入れた瞬間、あそこがじゅんと濡れるのを感じた。鏡の前に行って、自分を見たら、脚の間に湿ったところができてるのを見たわ。香水を手にした時も、心臓がドキドキしていた。あんなにドキドキしたのは、記憶になかったわ。香水を乳房にスプレーして、ドアに向かったの」 と彼女は大きく溜息をついた。