スティーブは、無意識的に銃の握りを触っていたのだった。拳銃は、ホルスターに入れられ、彼の右側の腰に装着していた。いつもの通りだ。すでにこれは彼にとって服装・身に着ける所持品の一部となっていた。何年も前から、彼は自分が武器を持っているということ自体、意識しないほどになっていた。スティーブは、嫌悪感あらわに鼻を鳴らした。この2人にこれを使う気でいたら、もうとっくの前に使っているだろうから。
スティーブは2人の様子を見ていた。衣服は乱れ、全身、川底のぬるぬるした泥に覆われている。突然、見つけられてしまったことがもたらすショックが、浮気をしていた2人の心に湧き上がってきているのが分かる。見るに情けない2人だった。スティーブのそれまでの怒りが、突然、侮蔑感へと姿を変えた。この2人は、ぬるぬるした泥にまみれた、汚らわしく侮蔑すべきことをしていたのだ。2人が全身川の泥にまみれているのは、まさに適切、そのものじゃないか。
あたりは静かだった。緩やかに流れる川が、かすかにごぼごぼと音を立てていた。時折、ピックアップのエンジンが冷えていくときの金属音が、唐突に混じる。
「バーバラ?」
スティーブが口を開いた。彼の声はさほど大きな声ではなかったが、それでも、彼の言葉にバーバラはたじろいだ。スティーブの顔には怒りの表情はなく、むしろ無表情だった。
「バーバラ!」 再び呼びかけた。
「何?」 彼女は答えた。正直、彼女は、何を言ったらよいか、何をしたらいよいかも分からなかった。
「家には戻るな」 スティーブの言葉は手短だった。
「君の両親のところか、どこか、そこへ行け。だが、俺のそばには来るな。分かったか?」
バーバラは頷いた。冷たい川の水をかぶり、恐れに震えていた彼女は、注意深く積み重ねてきた情事の淡い夢が、いとも容易く、たった数秒で、引き裂かれてしまったことを、ようやく理解し始めたところだった。現実の手厳しい光が彼女を照らしていた。
スティーブは彼女の姿をしばし見つめていた。不快感を示す表情が彼の顔に広がる。スティーブはバーバラの連れの方に顔を向けた。
「そして、間抜けのポーター!」
スティーブは、彼に聞こえる程度に声を大きくした。スティーブは自分がポーターのことを知っていること、それを彼に分からせたかった。
「お望みなら、警察に連絡すればよい。警察は私を刑務所に引きずっていくだろう。だが、私が出てきたときはどうなるか。お前の気にいらないことが起きるだろう。・・・それはここでしっかりと約束しておくよ」
ラファエル・ポーターは、公園に連れてきた女性の夫の話を聞きながら、高校時代にした殴り合い以来の、身体的恐怖を感じた。何も言わなかった。今、スティーブの手はホルスターに納められている武器の近くにはないが、それでも、そこから目を離すわけにはいかなかった。
スティーブは川に唾を吐き、振り向き、ピックアップに戻った。運転席に上がり、びしょ濡れの不倫男女に最後の一瞥を送り、軽蔑して唇を歪ませた。ドアを閉め、エンジンをかけ、バックで現場から離れた。
バーバラは理性が戻ったのか、スティーブに叫びかけた。戻ってきてと叫ぶ。スティーブはバーバラを見ていた。彼女の叫び声は聞こえていたが、ただ頭を振るだけで、車はバックし続けた。彼女がどのような顔で両親の元に会いに行くのか知らなかったが、それは彼には知ったことではなかった。バーバラとの人生は終わったのだ。彼女の面倒を見るのは、いまや、誰か他の人なのだ。
つづく