ディナー私は、ジョアン・ウッドワードが子供だったらどんな顔になるか、考えたことはなかったと思うけれど、突然、あの4人の、ほぼ同じ顔の女の子たちと対面した瞬間、ああ、ジョアン・ウッドワードが子供だったら、こういう感じだろうなと思った。綺麗な、肩先までの長さのブロンドの巻き毛の髪。どの子も、歯が抜け変わる時期で、歯が欠けている。いずれも、この子たちの母親を子供にしたような印象。小柄で、すらりと痩せていて、そして美人。
すると茶髪の可愛い男の子がふたり、走って、部屋に入ってきた。この子たちには、父親の面影を見てとることができるだろう。ふたりとも、すでに、年上である娘さんたちと同じくらいの背の高さになっている。
6人も子供たちがいるので、家の中はカオスと混乱状態で、騒々しくて、神経が苛立つ状態になっていると思うかもしれない。でも、この子たちはほとんど声を上げなかった。女の子のうちふたりは、一言も言わなかった。もう一人はちょっと意見を言ったけど、基本的に物静かだった。
4人目の娘さんがコメンテーターの役割を担っているらしい。ダイニング・ルームに入ってきた時から、みんなが席に座るまで、ずっと、しゃべり続けていた。父親のアンドリューが表情で黙らせるまで、おしゃべりしっぱなし。アンドリューは何も言わなかったし、その子もアンドリューの顔を見たようでもなかったのに、不思議だった。ともあれ、アンドリューが黙ってほしいといった表情を顔に浮かべた途端、その子はぴったりとおしゃべりをやめ、その後になって、父親の方を向いて、ウインクしたのだった。アンドリューは不機嫌そうな顔をしようとしていたけれど、作った顔つきなのは明らかだった。その子の名前はエマ。
奥さんのひとりが、私をお子さんたちに紹介してくれた。
「みんな? こちらは、ヘレン・ギャモンさん。ヘレン? これが、うちのEガールとEボーイよ。男の子は、イーサンとエリック。テーブルを隔てて、あなたの正面にいるふたりは、イディとエディ。左側の子がイディ」
するとアンドリューが割り込んだ。「あ、ディ・ディ? イディは右側だよ」
「あらそう? まあ、どちらにせよ、実際、あまり問題はないわよね? ひとりに話しかければ、ふたりに話しかけてるのと同じになるから。そうでしょ、みんな?」
ディアドラが、テーブルの向こうの娘さんたちにそう訊くと、ふたりとも、同時ににっこり笑って、首を縦に振った。ふたりは互いの目を覗きこんで、くすくす笑い出した。
アンドリューがその娘さんたちに言った。「何か言いたいことがあるなら、みんなに言っていいんだよ。で、何を言いたいの?」
右側の子、たぶんエディだと思うけど、「いいえ」と言った。
左側の子は、イディかしら? 「パパ」と言った。
右側が「私たち」
左側が「何も」
右側が「言いたい」
左側が「ことなんて」
右側が「ないわ」
左側が「よね?」
アンドリューが子供たちを叱った。「ふたりとも、ルールのことは知ってるよね? ふたりで話す時には、単語を交互に言うのは禁止。それ、迷惑なんだからね?」
右側が「オーケー、パパ」
左側が「わたしたち」
右側が「もう二度と」
左側が「これ」
右側が「しませんから」
左側が「それが」
右側が「パパが」
左側が「私たちに」
右側が「求めている」
左側が「ことなんでしょう?」
アンドリューは顔をしかめた。「ああ、とても楽しいねえ! どうか、今夜はずっとその調子で文を続けてくれないか」
私はビックリして、アンドリューに尋ねた。「このお子さんたち、どうやって、今のを?」
彼は頭を左右に振った。「知りませんよ。双子というのは、こんな感じなのかも。このふたりは、テレパシーを使ってるんじゃないかと思う時があるんです」