「ライジング・サン&モーニング・カーム」 第11章 The Rising Sun & The Morning Calm Ch. 11
出所 by vinkb
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これまでのあらすじ
16世紀釜山。地元娘ジウンは日本人ノボルと知り合い、ふたりは結ばれた。しかしジウンはノボルの弟サブローらに強姦され、自害する。反発したノボルは秀吉に不死の刑を科され、狐使いの美女に半人半獣の身にされてしまう。時代は変わり現代のシカゴ。女医アンジェラはノボルと知り合う。ノボルは自分が半人半獣であることを打ち明けた。二人はアンジェラの家に向かうが、ノボルは危険を察知した。サブローがノボルを追っているらしい。ノボルは自分の身体の研究を進めていることを説明した。ノボルはアンジェラのガードとして部下のゲンゾーをつけた。ノボルは過去を思い出す。文禄慶長の役での李舜臣との交流のことや戦時中の日本のことを。うなされるノボルを見て心配したアンジェラに、彼はすべてを語った。
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続く2日ほどは何事もなくすぎ、アンジェラはホッとした。アンジェラとゲンゾーは、以前よりは、互いに理解するようになった様子で、ゲンゾーは、前にも増して、周到に気を使い、自分やアンジェラが不必要に他人の注意を惹かぬよう、行動した。
アンジェラに過去を語った後、ノボルも悪夢にうなされて夜中に起きることはなくなった。
そんなある晩、仕事が終わり、アンジェラとノボルはゆったりした気分で夕食を食べ、楽しくおしゃべりしていた時だった。ノボルの携帯電話が呼び出し音を鳴らした。通常の通話とは異なる呼び出し音だった。急に真剣な顔になったノボルを見て、アンジェラは、「どうしたの?」と訊いた。
「ちょっとごめんなさい」
ノボルはそれだけを言って、書斎部屋入り、ドアを閉めてしまった。
「退屈な時が全然ないわね、ヤン?」 と、アンジェラはテーブルに跳ね登ってきた飼い猫のヤンに問いかけた。「チキンでも食べる?」
ネコは嬉しそうにアンジェラのもてなしを食べ、頭をアンジェラの手に擦りつけた。すると書斎のドアが開き、ノボルが険しい顔をして出てきた。
「ドウシタ[Doshta]?」
ノボルはクローゼットを開け、小さなバッグを出した。「東京に飛ばなくてはいけなくなった。ちょっと緊急な仕事が持ち上がって」
「何が起きたの?」
アンジェラは、急にヤンに膝の上に飛び乗られ、小さく悲鳴を上げた。ネコはもの欲しげに彼女の顔を見つめた。
ノボルはアンジェラに返事をせず、携帯で番号を打ち、相手が出てくるのをイライラしながら待った。相手が出ると、早口の日本語でいくつか命令を発し、それから携帯を閉じて、テーブルの上に置いた。
「うちの会社に投資している人たちが、会社に関して表面化してきた懸念について話し合いたいと言ってきたんです」
アンジェラはヤンを抱っこしながら立ち上がり、ノボルところに近づいた。心配顔だった。「どんな懸念なの? 深刻なこと?」
ノボルは笑ったが、苦々しい笑いだった。「簡単に言ってしまえば、私の弟が、私の人生に嫌なことを起こそうと、やれることを何でもやってるということかな」
「私、その人にこれからも会わなくてもいいといいんだけど」 とアンジェラはヤンを顔に抱き寄せ、その毛に鼻先を擦りつけた。
ノボルは、子猫を抱くアンジェラにちょっと目をやり、「私もそう願いたい」と力なく微笑み、旅行準備を再開した。「あなたは一緒に行けないよね?」
「ごめんなさい。患者さんの診療の予約があって、こんな短期間にキャンセルすることはできないわ」 とすまなそうな顔を見せた。
「ショウガナイナ[Shoganei-nah]。まあ、そうだとは思っていたけど」 とノボルはがっかりした声を出したが、すぐに、今度はアンジェラをなだめるような声に変わった。「これを聞いたら、怒るかもしれないけど、ゲンゾーにここに来てもらうことにしました」
アンジェラはヤンを床に落とした。ヤンは不服そうな鳴き声をあげた。「ノボル、イヤよ!」
「アンジェラ、お願いです!」
ノボルはアンジェラを抱きしめようとしたが、アンジェラはかたくなに拒んだ。
「これはとても重要な会合で、どうしても出席しなければいけないんです。あなたが安全かどうかいつも気にしていたら、会議に集中できなくなってしまう」
嫌々ながらも、ノボルに抱かれながら、アンジェラはすねながら訊いた。「それで、いつ戻ってくるの?」
ノボルは顔を上げ、頭の中で計算した。「少なくとも、月曜までは」
「月曜? 来週までずっと、あのニンジャ・ボーイと一緒なわけ?」
ノボルは、アンジェラがゲンゾーをニンジャ・ボーイと言ったのを聞き、思わず笑ってしまった。笑うことで、アンジェラがさらに腹を立ててしまうことは知っていたものの。
「帰ってきたら、きっと埋め合わせをすると約束するから。それに忘れないで…」と彼はアンジェラの首を掴み、耳を舐めた。「私も、4日間も、あなたとベッドを共にすることができなくなるのです。だから、私もあなたと同じくらい辛いのです」