ディナーが始まると、女の子たちは食事に集中したので、事態はようやく落ち着いてきた感じになった。アンドリューは何か言うことがあったらしく、平然と講義を開始した。この人は確かに変人だわ。ここのお嬢さんたちが誰から性質を受け継いだのか、分かったような気がした。
「僕は前からコンピュータのゲームのソリテアについて考えてきた。そして、そのゲームが以前よりも僕が負けるように変わってきていると納得したんだ。1000回分くらい、ゲームの統計分析をしている。分かったことは、もし僕がエースを2枚引くと、次に僕が引くカードがハート、スペード、クラブ、ダイアで別の種類の2枚になる確率が73.5%になること。そしてエースを3枚引くと、次に引くカードが残りの種類のカードになる確率が47.3%だということ。統計的に充分大きなデータをもとにすると、これは数学的に言って妥当ではないということなんだ」
奥さんのひとりが言った。「アンドリュー? 私たちが初めて出会った時のことを覚えている? あなた、私たちに、自分は他の人がとてつもなくつまらないと思うことに興味を惹かれることがあるんだって言ってたわよね? 信じて、いま言ってることがそれに当たるわ」
ジェイクが言った。「お前、パソコンでソリテアをやってるのか? 単に手札の分布を分析するために、何時間もパソコンの前に座って1000回もゲームしていたって? いったい何のために?」
アンドリューは守勢に回った顔をした。「リラックスできるんだよ!」
ジェイクは頭を振った。「おいおい、俺はお前を世界で一番リラックスしてる男とばかり思っていたぜ」
エマが弟のひとりに話しかけた。「というのも、パパはいつもヤラレテルから」
その弟はニヤリとして言った。「うん、パパはいつもヤラレテルね」
アンドリューが口を出した。「カラハリ砂漠に行って、そこのブッシュマンに、アンドリュー・アドキンズは誰かと訊いてみればいいさ。そいつは、『いつもヤラレテル男だね』と答えるだろうよ。世界中の誰もが僕の性生活について知ってるようだ」
彼の奥さんが言った。「ええ、そうよ。そして私たちみんなそれを誇りに思ってる」
アンドリューはソリテアの話しから離れたくないようだった。「でも、考えてみてくれ。僕はトランプゲームで不規則性を暴いたということ。そんなふうにはなってはいけないはずなんだ。以前よりかなり勝率が落ちている。僕はその理由について理論を考えてるところなんだ」
彼の奥さんが私に言った。「アンドリューは理論作りがとても得意なの。中には本当に興味深い理論もあるんだけどね」
アンドリューは彼女をちょっと睨みつけ、話しを続けた。
「この現象を引き起こしてる原因は何だろうか? ちょっと考えてみよう。(A)お前はソリテアをやりすぎなのだよと教える、マイクロソフトなりの方法。ゲームのプレイ回数が一定数に達すると、自動的に勝率を落とすように前もってプログラムされているということ。(B)もうひとつは……ちょっと今のところ、(B)については思いついていないんだが」
その時、私の隣に座っているエマがじっと料理の皿を見つめているのに気がついた。どうやら、豆を皿の横においてあるナイフの下に隠れるように料理をいじっている様子だった。
アンドリューが言った。「オーケー、その(B)だ」 と何かひらめいた様子で目を輝かせていた。「(B)エミー! まず第1に、エミー? その豆をナイフの陰に隠せるとでも思っているのかい? ちゃんと食べて、片付けること。第2に、君はずるい子だね。パパのソリテアのゲームに何か仕掛けただろう!」
エマは、あのとても純真そうな顔をして彼を見つめた。この表情は実は罪を認めたことを表していると、私も理解しつつあった。「私じゃないわ、パパ。どうして私が?」
「君はパパを苦しめるのが好きなんだね?」
彼女はちょっとウインクした。「でも、パパは楽しそうに分析していたじゃない? パパの生活にちょっとだけ集中すべきことを与えたいと思っただけなの」
「自分のことに集中してくれ」 とアンドリューが呟くのが聞こえた。