陽の光が顔にあたるのを感じ、私は目を覚ました。光は私の寝室の、オグデン・スリップ(
参考)に面した東向きの窓から差し込んでいた。私の隣にはアンジーが横たわっていた。片肘をついて頭を乗せ、目覚める私を見つめていた。天使のような笑顔を見せている。
「おはよう、私の愛しい人! 大丈夫? 二日酔いにはなっていないと信じてるけど?」悪い効果は出てないでしょ? 私は信頼してるけど」
「信頼なんて言葉、今は、そんなに何気なく使えるとは思えないけど」 と私はぐったりしながら答えた。
突然、昨夜の記憶が頭の中によみがえった。電流で撃たれたように上半身を起こし、直立させて叫んだ。
「ダイアナ……!」
アンジーは私の胸に優しく手をあて、私を落ち着かせた。
「無事にシカゴから出たわ……。そうせざるをえなかったの。今はシカゴ中の警察とスポーツ・ファンが彼女の命を狙っているから。ヒュー・グラントとディバイン・ブラウン(
参考)よりもずっと悪い状況ね」
私は当惑しながらうつむき、毛布を見つめた。すべてを鮮明に覚えているけど、でも、薬物のGHBを盛られていたせいで……?
アンジーは私の心を読んで、頭を左右に振った。
「バリウムよ」と彼女は訂正した。「直ちに意識を失わせるような量じゃないわ。あなたを扱いやすくするだけの量。あなたが大騒ぎさせないようにしつつ、車に乗せることができるようにね。ごめんなさい。ジェフ・スペンサーがダイアナを殴ってるとあなたが言ったでしょ? そしてあなたはそれについて何かしようとしていた。私たち、あなたが何かありえないほど高貴なことをして、本当に痛い目に合わせるような危険は犯したくなかったの。私たち、それを避けようとしていたのよ。今回の件、最初からすべてが、そうなっていたの。ちなみに、ジェフは飲み物にGHBを入れられていたわ。彼、記憶があるかどうか、あやしいわね。少なくとも、天罰を受けるまでは記憶がはっきりしてないんじゃないかしら?」
私は両膝を胸に押しつけ、両腕を回して抱え、前後に身体を揺らした。アンジーは両腕で私を抱いた。
「あなたには、最初からのすべてを知る権利があるわ」 と彼女は私の耳元に甘い声で囁いた。
「ダイアナが私が知らなかったことをいくつか教えてくれた。残りのいくつかは私の推測。でも、かなり事実に近いと思ってる。あなたとダイアナが初めてリンガーズのお店で出会った、あの金曜日の夜。あの夜は、あなたとダイアナがつながった最初で、最後の夜、つまり一夜限りの出会いになっていたかもしれない。ダイアナの言葉を使うと、あの時点では、あなたはダイアナにとっては、いつもの『変態』のひとりにすぎなかったらしいわ。後になってあなたが彼女の家から慌てて出て行くのを見て、彼女、大笑いしたようね……」
「……あの夜、実は、ジェフ・スペンサーもリンガーズのお店にいた。ダイアナとアレをしようと期待してね。あの週、スーザンはジェフに愚痴を言い続けていたらしいわ。あなたが自分の生活の面倒をみるべきなのに、自分を捨てて出て行ってしまったとか。でも、ジェフとしては、泣きごとを聞かせられるのはうんざりで、それなしでエッチがしたいと思っていた。だからリンガーズに行ったみたい。そして、ジェフはあなたとダイアナがあの店を出るのを目撃したの。ジェフはすぐにあなたが誰なのか分かったと……」
「……次の日の夜、ジェフはダイアナに詰め寄って、あなたが何かの取引でジェフに損害を与えたとかと吹き込んだのよ。そして、ダイアナに、ちょっとあなたを『遊んで』あげたら、それなりの褒美をやろうと言った。ジェフは、ダイアナに、あなたと仲良くなって、女装の趣味を教え込み、女装した姿でダイアナにセックスされてる写真を撮ってもらうのを期待したわけ。そして、あなたにそんな『汚点』がある証拠をゲットした後、スーザンと一緒に姿を表し、離婚の話を帳消しにし、さらには、以前同様、ふたり好きな時に不倫をしつつ、経済的にはあなたに支えてもらう人生を送れるよう、あなたを脅迫するつもりでいたわけ。その計画にあなたを確実に従わせるため、ジェフは写真を得た後、あなたをぶちのめす計画でいたようだわ……」
「スーザンも知っていたの?」 私は怒って唸った。
アンジーは頷いた。