「ダイアナは、あなたやジェフの世界ではあなたを守りきることはできないと知っていたのよ。『女装した男』という立場では、それはムリだと。そこでダイアナは、あなたを自分の世界に引きずり込まなければならなかった。それも完璧に。その世界は、ダイアナがルールを敷き、すべての采配を振るえる世界だから。ダイアナはジェフにファッションショーのことを話した。そして、そのショーこそ、あなたを罠にはめるのに絶好の機会になると言ったわけ。ジェフは了解したわ。彼は、公の場であなたを侮辱するという側面が特に気に入ったみたい。そういうことになったので、ダイアナは自分の計画を実行するための時間的余裕ができた……
「……ジェフは、ショーのことをスーザンに言っておく必要があった。スーザンが、パブリシティ関係の準備をすることになっていたし、カメラマンやテレビ関係者がショーの取材にくるよう手はずを整えることになっていたから。ジェフもスーザンも、公の場であなたをずたずたにする瞬間を、本当に心から待っていたに違いないわね。ふたりとも、あなたがこれほどまでに完全に変身していて、完全に女性として通る姿になっているなんて、思ってもいなかったんじゃないかしら。でも、ダイアナはあなたの変身の度合いを十分知っていた。そして、そのことを利用してしか、ジェフやスーザンから、あなたと彼女自身を守ることはできないと知っていたのよ……」
「これに君が絡んでいることが、全くの偶然とは思えないんだけど……」
アンジーは顔を赤らめ、うつむいた。
「そうなの、実は偶然じゃなかったの……。私、ほとんど、最初から知っていたの……。私はシーメールとかが普通の環境で育ったと、前に言ったの、覚えている? あのバレンタイン・デーの日、私、彼氏とのデートをすっぽかしたの。彼、いつも私を待たせてばかりだったから。私はショーを観にリンガーズのお店に行って、女友達とおしゃべりしてた。そのとき、『ランス』とダイアナが着替え室に入って、その後、あなたとダイアナが出てくるのを目撃したわけ。女装が普通の世界で育った人間しか、あの時のあなたと『ランス』が同一人物だとは認識できないでしょうね。実際、その前からずっと、私はあなたが女装したらどうだろうって妄想してエッチな気持ちになっていたし……。あの着替え室から出てきたあなたを見た瞬間、どんなにあなたが欲しくてたまらなくなったことか! もう、あの場でイッてしまいそうになったほどよ! そして、あなたが外に出て、あの男があなたの後をついて出たとき! 私、嫉妬で気が狂いそうになっていたの!」
「ちょっと待って!」 と私は叫んだ。「あの月曜の午後、私がもうあそこが『処女』じゃないと言ったとき、君はすごく驚いていたじゃないか!」
アンジーはウインクをして、私に笑顔を見せた。
「確かに驚いたわよ。そうじゃなかった?」 と彼女は猫なで声を出した。「本当に私がそう言ったとしても、すごく説得力があったもの。とにかく、あなたがあの男との『デート』に出ている間に、私、ダイアナに近づいて、素敵な『ガールフレンド』ができたわねっておだてあげたの。ダイアナは夢中になってあなたのことを話してくれたわ。あなたと過ごした一日や、あなたが彼女にとても贅沢をさせてくれたことについて、もう、しゃべりっぱなし。もうあなたにぞっこんになってしまったとか、あなたを完全に変身させてあげるつもりだとか、いろいろ。ダイアナは、その夜は、罠について何も話してくれなかった。あなたが私の上司だと言ったら、彼女、びっくりしていた。私が、あなたの変身について私も手伝うと言ったら、彼女、すぐに『手伝って!』と叫んだわ」
「君は、個人的に私に興味があることをダイアナには言わなかったの?」
アンジーはゆっくりと頭を左右に振った。
「悪いことだとは知ってたわ……」とアンジーはすまなそうな声になった。「私、あなたのことずっと好きだったでしょ? そんな時に、『リサ』になったあなたの姿を見たもんだから。まさにずっと前から妄想して、恋焦がれていた姿のあなたを観たもんだから……。盗人に名誉などないってことかなあ」
私はちょっと肩をすくめた。
「後になって……ダイアナがジェフと徹底的に話し合って、そのあとジェフがダイアナを脅かし始めた後、ダイアナはすべてがばらばらになるのを見たの。そして他の人に助けてもらう必要があると思ったのね。そういうわけで、ダイアナは私にすべてを告白してくれたの。もちろん、ダイアナには私を頼りにしてくれていいわよと言ったわ。私の親切心が、単なる彼女との友情関係以上のことによるのかもしれないってダイアナが疑い始めたのはいつ頃からだったのか? それは私には分からない。女の子はそういうことにはすぐに気づくものなのよ。ともあれ、私の気持ちを知ったころかしら、ダイアナは、たとえどんなにあなたのことを愛していても、あなたと一緒にいることはできないと思い始めたんだと思う。あなたはあまりに深く自分の世界に閉じこもっていた。ダイアナは、あなたのその世界ではつまはじきになっていたと感じたのね。彼女のために言うけど、ダイアナは私があなたと一緒になったことで私を恨んだりは決してしなかったわ。昨日も、ダイアナはこう言ってくれたもの。もし、あなたを自分のものにできないとしたら、私以外の人には譲りたくないって」
そう言いながらアンジーは涙を流した。
「あなた、ダイアナに何か言った? 彼女の身の安全を守るためなら、何でも、あらゆるものを手放してもいいって、そんな内容のことを?」
私はうつむいてシーツを見つめたまま、小さくうなづいた。私の目にも涙があふれてきていた。
「リサ!」 とアンジーは大きな声をあげた。「ダイアナはあなたにそのことを思い出させて頂戴と私に言っていたわ。まさに、ダイアナがしたことは、そういうことだったのよ。彼女はあなたの身の安全を守るため、すべてを手放したの。あなたのことも含めてすべてを手放したの。あなたが彼女にしたこと、与えたこと、影響を与えたことに比べれば、そんなこと大したことじゃないわってダイアナは言っていた。でもね、彼女にできる最大のことを彼女はやったのよ……
「……お願いだから、これから私が言うことを聞いて、私を憎んだりしないでほしいんだけど。私、ダイアナがあなたにしたように、他の人のためになるようにと、自分を犠牲にした人、知らないわ。そういうことをした彼女を見て、私はダイアナを自分の血肉と同じくらいの存在に想ってるの。それほど彼女のことが好き。だけど、彼女が姿を消したことについて残念には思っていないのも事実。私はずっと前からあなたのことを自分のものにしたいと思い続けてきたから。今はあなたと一緒になっている……。ダイアナのことを思うと辛いけど、だけど、私はあなたのことを全部大好きなの。その気持ち、あえて証明しなくても充分伝わっていると神様に祈りたい気持ちよ!」
アンジーはそう言って私をぎゅっと抱きしめた。啜り泣きに合わせて、彼女のからだが震えていた。その気持ちで私たちはひとつになった気がした。