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新たな始まり (7) 

仕事はとても少なかった。デニスは2週間近く探し続けていたが、ひとつも見つからなかった。

だが、その点を別にすれば、彼の生活は、これまでにないほど良くなっていた。彼とアンバーは日増しに近しくなり、互いに秘密を話しあう仲になっていた。それに、どこに行くにもふたりは一緒だった。数は少ないが、共通の授業も受けている。デニスは生物学、アンバーは工学と、専攻は違っていたが、概論の類の授業は同じものを取るようにしていた。

この最初の2週間の間に、デニスの態度や身のこなしは大きく変わっていた。デニスは、その変化の大半はアンバーのおかげだと思っている。彼女はとても快活で楽天的なので、彼女がいるだけで、デニスは、根っからの鬱屈した性格が陰に潜むのを感じた。

彼の身のこなしについて言えば、かなり女性的になったことは認めざるを得なかった。なんだかんだ言っても、デニスは普段の時間のすべてをアンバーと一緒に過ごしてるし、アンバーは他の誰よりも女性的であった。そのことと、ふたりが同じ服装をしていて(アンバーの服をユニセックスを言う人は誰もいない)事実が重なれば、デニスがアンバーの身のこなしをまねるようになったのは、当然と言えるだろう。

その日、アンバーは机についていて、デニスが洗濯物を畳んでいる時だった。デニスが声をかけた。

「仕事を得た人は誰もいないみたいだよ」

「ウェイターとかだったらいつでもできるんじゃない? そういう仕事で学生時代を乗り切る人はたくさんいるわよ」

「それも考えたんだけど、どの仕事も、経験有が条件となっているんだ……でも、僕にはそういう仕事に就いた経験がない」

アンバーが振り向いた。「そんな可愛いのに? 経験有だろうと無だろうと、あなたなら、速攻で雇ってもらえると思うけどなあ。ともかく、あなたに使える手段を利用するのよ。男は簡単なモノよ。ちょっとだけでいいから愛想を振りまくの。そうすれば、あなたが望むこと何でも、してくれるわ」

「でも僕は女の子じゃないし。女の子かそうでないかが、大きな違いなのは分かるだろう?」

「あなたって、世の中がどうなっているか、ホントに注意してないんじゃない?…今は、世の中が前とはすっかり変わってるの。どう言えばうまく説明できるか分からないけど。そう言えば、この前、完璧と思える記事を見つけたわ」

アンバーはそう言ってデニスを手招きし、マウスを何度かクリックした。デニスが後ろに立った時までに、彼女は、すでに、あるネット記事をディスプレに表示させていた。

「これ、読んでみて?」

* * * * *
「調整するということ:すべてのボイたちが知っておくべきことのいくつか」 イボンヌ・ハリス著

数ヶ月前、オマール・ベル博士が大気に生物化学物質を放出し、それはこの何ヶ月かに渡って、私たちの白人男性に対する従来の考え方を効果的に根絶することになりました。男性的ないかにもアメリカ男といった存在は消滅し、その代わりに、小柄な(通常、身長165センチに満たない)男の子と女性の中間に位置する存在が出現したのです。ですが、そのことを改めて言う必要はないでしょう。あなたがこの記事を読んでるとしたら、自分がどう変わってしまったかを一番よく知っているのはあなた自身であるから。この記事の目的は、情報提供にあります。(以降、この記事ではボイと呼ぶ)白人男性たちが、依然として男性のように振舞おうとあくせくしている様子がいまだに続いています。それは間違いなのです。あなたたちはもはや男性ではありません。ボイなのです。それを踏まえて、この記事では、いくつかの主要な問題点に取り組むことにします。それは挙措、セックス(イヤラシイ!)、そして服装という3つの問題です。それでは、前置きはこのくらいにして、早速、本論に入りましょう。

すでに述べたように、最初の問題は挙措についてです。どういう意味だろうかと思うかもしれません。まあ、「挙措」とは態度、振舞いのことを言う気取った用語ですが、それ以上のことも意味します。挙措には、普段の姿勢から歩き方に至るあらゆることが含まれます。ボイたちが、これまでと違ったふうに振る舞うことを学ばなければいけないというのは、奇妙に思われるかもしれませんが、でも、率直に言って、あなた方が男性のように振舞おうとするのは、マヌケにしか見えないのです。10代の若い娘が、その父親のように振舞おうとする姿を想像してみるとよいでしょう。まさにそれと同じです。ボイが男性のように大股で歩くのを見ると、まさにそれと同じくらい奇妙に見えるものなのです。

ボイは、男性とは異なるがゆえに、男性とは異なるふうに振る舞うべきなのです。この点はいくら強調しても足りません。というわけで、外出しようとするあなたたちボイに、いくつか指針を提供しましょう。まず第1に、背中を少し反らし続けること。その姿勢を取ると、あなたのお尻を完璧に愛しいものに見せることになります。第2に、腰を少し揺らすようにすること。男性はそれが好きです(これについては後で詳しく述べます)。第3に、怖がらず、エアロビクスを行うこと。皆さんは身体の線を保つ必要があります。太ったボイは孤独なボイになってしまいます。個人的にはストリッパーのエアロビを勧めますが、他のどんなエアロビでもよいでしょう。ですが、私が提供する指針で一番重要なものは、次のことです。女性をよく観察し、彼女たちをまねること。皆さんは、女性にはるかに近い存在となっているのです(しかも、性的な目標もきわめて類似している。これについても、やはり、後で詳しく述べます)。そして、女性たちは皆さんよりはるかに以前から、これを実行してきている。なので、ボイたち、私たちを観察し、学習するのです!

触れなければならないふたつ目の問題は、服装に関する問題です。(あなたが、元々、発育がよくなかった男子だった場合は別ですが)みなさんの大半は、おそらく、持っている服のすべてが、もはや自分に合わないことに気づいていることでしょう。ですから、皆さんは、すべて新しい服を買い直す必要があります。たいていのデパートでは、直接ボイを対象にして、新しいセクションを開いています。なので、そこから始めるのが良いでしょう。ですが、予算に限りがあるならば、勇気を持って、あなたのサイズに近いガールフレンド、妻、あるいは姉妹から服を借りるとよいでしょう。

ただし、いくつか注意すべき点があります。まずは下着から話しましょう。ボイはパンティを履くこと。そうです。ブリーフやトランクスではありません。パンティです。みなさんの体形は、パンティを履くようになっているのです。パンティを履くことを好きになるように。私も、新しいセクシーなパンティを履くのが大好きです。それを履くと、自分に自信がみなぎるのを感じるものなのです。ボイの中には自分の女性性を完璧に受け入れ、ブラジャーをつけ始めた人もいます。そのようなボイたちの適応力に、私は拍手をします。ですが、私の個人的な意見を言わせていただければ、ボイはブラをつけるべきではありません。どの道、ボイには乳房がないのですから(今の時点では、なのかもしれませんが。気の狂ったベル博士が何をしたか、知ってる人は誰もいませんし)。皆さんは、女の子でもありません。ボイなのです。ボイには乳房はありません。ゆえにブラの必要はないのです。

アウターに関して言うと、基本的に女の子が着る服なら何でも適切と言えるでしょう。スカートからジーンズ、ブラウスからドレスに至るまで何でもよいでしょう。着てみて似合うと思ったら、着るべきです。注意すべきは一つだけ。(たとえサイズがかろうじて合うような物であっても)紳士服を着たら変に見えるということを忘れないこと。皆さんは、決して男性のようにはなれないのです。ですから、婦人服や、ボイ、あるいは子供服のセクションにある服に限定すべきなのです。

最後に、セックスについて少しだけ触れたいと思います。もし、この話題に関して嫌な感じがしたら、即刻、読むのを止めてください。

よろしいですか? まだ、読み続けていますね? よろしい。

ボイの皆さんは、性器に関してサイズが減少したことに気づいているかもしれません。この変化に気恥ずかしさを感じた人も多いことでしょう。でも、そんな恥ずかしがることはないのです! ボイが小さなペニスをしていることは完全に自然なことなのです。最近の研究によると、白人男性の平均のペニスサイズは4センチ程度になっており、しかも、それより小さいことも珍しくはありません(実際、私の夫は、2センチ半にも達しません。これ以上ないほどキュートです)。ボイの皆さん、心配しないように。そんなペニスのサイズなんて、もはや、それほど重要なことではなくなっているのです。そのわけをお話ししましょう。

皆さんは、以前に比べて、アヌスがかなり感じやすくなっていることに気づいているかもしれません。皆さんの身体はそういうふうにできているのです。その部分を、新しい性器だと考えるようにしましょう。女性にはバギナがあります。男性にはペニスがあります。そして、ボイにはアヌスがあるのです。恐れずに、その新しい性器を試してみるとよいでしょう。その気があったら、そこの性能を外の世界で試してみるのもよいでしょう。ガールフレンドから(あるいは、気兼ねなく言えるなら、姉や妹から)バイブを借りるのです。そして、街に出かけるのです。すぐに、そこが「まさに天国みたい」に感じることでしょう(これは私の夫の言葉です)。

さて、皆さんの人生にとって最も大きな変化となることが、次に控えています。多分すでに予想してることでしょう。そうです。ボイは男性と一緒になるべきなのです。これは簡単な科学です。ボイは女性とほぼ同一のフェロモンを分泌します。それに、男性のフェロモンに晒されると、ボイは女性とほぼ同一の反応を示すことも研究で明らかになっています。

これが何を意味するか? ボイの皆さん、気を悪くしないでください。ですが、皆さんは男性に惹かれるようになっているのです。もっとも、男性の方も皆さんに惹かれるようになっているのです。そのような身体の要求に抵抗したければ、してもよいでしょう。ですが、これは自然なことなのです。この事実と、皆さんが感じることができる新しい性器を持っている事実を組み合わせてみれば、なぜ、ベル博士があの物質を放出して以来、男性とボイのカップルが400%も増えたのか、その理由が分かるでしょう。

ボイにとって、ヘテロセクシュアルであるということは、男性を好むということを意味するのです。そのことを拒むボイも多数います。そのようなボイは、基本的にホモセクシュアル(つまりレズビアン)であることを意味します。あるいは、少なくとも様々な実生活上の理由から、レズビアンになっているということを意味します。多くの女性が、変化の前は、男性と結婚していた(または男性のガールフレンドになっていた)わけですから、変化後もその関係を続けるとなれば、ボイはレズビアンになることになるわけです。

一応、その事実を念頭に置いてですが、そういうボイの皆さんには近所の「アダルト・ストア」に行き、何か…突き刺すもの…を探すことをお勧めします。あなたもあなたのパートナーも共に同じ種類の欲求を持つので、おふたりが共に満足できるようなものを手元に置いておくことがベストでしょう。

これを読んでる皆さんの中には、まだ拒絶状態でいる人も多いと思います。厳しいことを告げる時が来たかもしれません。どうか、鏡を見てください。何が見えますか? その姿は男性ですか? 決してそうではないでしょう。その姿は女性ですか? いいえ、違う。鏡の中からボイがあなたを見ているはずです。ボイはボイらしく行動する時が来たのです。

カウンセリングが必要な人もいるでしょう。それは良いことです。政府は、そのような要求に備えて、国中にカウンセリング・センターを設置しました。そこに行くこと。そして新しい自分を受け入れる方法を学ぶことです。この記事が役に立てばと期待しています。それでは今日はここまで。ありがとう。次週は、パンティを履くことが、あなたに人間としてどのようなことを教えるかについてお話します。


* * * * *

すべてが理にかなっていた。フェロモンの下りは、なぜ自分がもはや女性に性的に惹かれなくなったのかを説明していた。デニスはホッと溜息をついた。彼は、ひょっとして自分が変質者か何かになってしまったのではないかと思っていたからである。そんな自分は完全に正常である(少なくとも、ジェンダーが3つある、この新しい世界では、正常なのだ)という意見は、大きな安心をもたらすものであった。

だが、この記事は、デニスが不思議に思っていた他の事柄についても説明していた。まずは服装だ。彼が見かけたボイたちは大半が婦人服を着ていたが、いずれも、とても地味な服装だった。それが最近、ドレスやスカートを身につけるボイたちも見かけるようになっていた。どうして、このように変わってきたのか、この記事が説明していた。おそらく、ボイにはどんな服装が適切かに関して、新しい見方が出てきて、それが関わっているのだろうと分かる。

もうひとつ、この記事によって分かったことがあった。それは、最近、黒人男性がボイと手を組んで歩いてる姿をたくさん見かけるようになったこと。その理由がこの記事によって説明されていた。以前は、この風潮は大学内のことだろうと思っていた。大学だと、若者たちが自分のセクシュアリティに関して実験的な行動をしがちだからと。だが今は、これはボイがボイらしい行動をしているからだと分かった。この記事に書かれているように、ボイは男性と付き合うものなのである。デニスも、記事を読んでる時にすでに、これは正しいと実感した。彼は、トレントの露わになったペニスを見て反応した時から、このことを知っていたのである。

そして、この記事を読んで、アンバーが言ったことがいっそう妥当性を持っているように感じられた。デニスは、別に自慢気にではなく、自分がかなり可愛いボイであること、もっと言えば、美しいボイだとすら言えると思った。デニスは、自分はユニークな存在だと感じた。確かに、自分の他にも、異人種のカップルの間に生まれたボイがいるはずだとは思っていたが、いまだ、ひとりも出会っていない。そのことは、デニスに自分が特別であり、とても珍しいセクシーな存在なのだと感じさせた。

デニスはアンバーの忠告を受け入れ、ウェイター(ウェイトレス?)の仕事に応募しようと決めた。

デニスとアンバーは、この記事と、この記事が意味することについてしばらく話しあった。そしてデニスは新しい自分の立場を完全に受け入れ始めた。

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[2015/08/24] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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